ジュエリーショップの店先にあった、クリスタルの
指輪。隣に並んでいた彼は、それを見つめる私を
見つめていた。
「買ってくるね」
『えぇ?いいよいいよ、私、見てただけだし』
「いいから」
と、その指輪を持ってお会計をして戻ってきた。
6000円に満たないその指輪を持って戻ってきた彼は
「愛してる」
と言った。彼はその指輪の箱をぱかりと開けて、
指輪を私の指にはめた。きらり、と指の上で水晶が
光の反射で光る。
『ありがとう』
目頭に熱いものが上ってきて、思わず天を仰いだ。
彼は照れくさそうに笑って私の指に手を絡める。
「本番は、また、やるから。」
その言葉がプロポーズを表していると気づくまで、
あと1秒。
「暑い」
口を開けばみんなそう言うので、私もさらに暑く
感じる。夏って、こういうところから感じるのでは
ないだろうか。夏の匂いって、ふとしたときに気づく
ものではないか。ああ、今年も、暑いな。
カーテンの隙間から射す光が、眩しかった。
まるであの人みたいだった。君に照らされて、
私は今日も息をしているんだ。君が笑っているだけ
で、それだけでこの世界は鮮やかでいてくれる。私に
とって、絶対に生きる価値があると思わせてくれる。
まだ眠ろうとする身体を起こして、カーテンを
思いっきり開けてみた。やっぱり眩しい。暑い。
君と会った時にかわいくしていたくて、焼いて
いなかった肌は綺麗な薄橙である。カーテンを閉め、
朝の支度を始める。
あなたに会えたとき、私はどんな顔をするのだろう。
そもそも、地方に住んでいて会えるのか。チケットの
高い倍率を乗り越えられるのか。ハードルは高い。
しかし、君に会えたとき。君を間近で見れたとき。
私の全細胞は喜びに満ちることだろう。そのために、
私は綺麗になるのだ。
あの、模様替えの話をしていた彼の影響で買った、
微かに揺れる純白のカーテンみたいに。
澄んでいる空。雲ひとつなかった。
深い青空に眩しい太陽。
輝いている大海は、僕の背中をそっと押している。
「さぁ、気持ちを伝えるんだ。」
深く青い時期にしか、出会えないものがある。
それがまさに、彼女のことだと、僕は思う。
じゃあ、青く無くなってしまった僕たちは、空の下で
何を思うのだろうか。
「あー…あっつい…」
私がそう言えば、
「いや、冷房寒くない?」
と隣の彼女が言う。友達である亜美は寒がりで、
対照的に私は暑がり。だから、季節関係なく、私は
一年中暑いと言うし、彼女は一年中寒いと言うのだ。
「梅雨明けてきたのかな」
と彼女が言う。私は、暑いしそんな訳ないから!!と
悲痛な叫びをあげる。いや、これは本心だ。
これが、毎年の恒例である。
ああ、夏の気配がする。