「あの日の景色」
と言われて思い出すのは、何の思い出だろうか。
人生経験の浅い自分には思い出すような色濃い記憶も
無いような気がするが、これから探したいと思う。
そんな景色を、自分の大切な人と見ることができたら
嬉しいと思う。
いつか人生が終わるとき、自分の頭の中に色濃く
残る記憶って、いったいどんなものなんだろうか。
自分が何かした記憶ではなく、自分の大切な人の
嬉しい場面であれば尚更嬉しい。
そう思うのは、自分だけだろうか。
願い事は傲慢であるべきだ。
せっかくの、七夕というイベントであるわけだし。
僕の幸せと、こんな僕に優しくしてくれるような、
僕の大切な大切な人たちの幸せ。
あんなにも優しい人たちを抱きしめるみたいな
あたたかい強さがほしい。
お星様は叶えてくださいますか。
努力しても得られないような優しい力を、僕に
いただけますか。
僕らは、幸せに生きられますか。
教室の窓から、景色を見るのが好きだった。
空を飛ぶ飛行機。中庭に植えてある植物たち。
グラウンドで走り回るサッカー部。そして、
その中にいる、私の好きな彼。ゴールを決めて笑って
いるところも、部内で一番足が速いところも、自分
でも小学生みたいな理由だと思うけど好きだ。
もちろん顔も性格も好きだ。こんな私にも優しい。
そして、景色にうっとりして下校時刻間近まで窓を
眺めていると
「中山、まだ居たんだ。何してたん?」
なんて関西弁混じりに言い、一緒に景色を見ようと
2人で数分だけ空を見つめる時間が、この世で
1番と言っていいほど好きだった。
ある日、また放課後に教室に残って空を見上げていた
私を見つけた彼はこう言うのだ。
「俺、空見て楽しそうにしてる中山が好き。」
空を見上げているうちに実った恋なので、私たちの
中で「空恋」(ソラコイ)と呼ぶことにした。
ざざ、と重みのある音が砂浜に響く。
彼は波打ち際で手を振って、いこうと言うのだ。
テトラポットにひょいと飛び移り、軽やかに笑う。
君に会いたいよ。僕は。
「ねぇ、カイ。」
『なんだい、ケイ。』
「君はなんで、なんで海で……。」
『ふと、綺麗な景色…走馬灯を見たいと思ってね。』
そうやって儚げに笑った彼が、綺麗に見えた。
僕はね、君がいないとやっていけないと思ってたんだ。君しかいない。君じゃないとダメだ、って。
彼の生前、僕らはいわゆるソウルメイトみたいに仲の
良い友達であった。どこに行くのも一緒。趣味嗜好も
一緒だから、進路はもちろん一緒。小学生から高校生
となった今の今まで、ずっと一緒だった。
「カイ。君とは、ここで分かれる運命だったの?」
『さぁね。ケイとは、初めて違うことを考えていると
感じたけど。』
「あぁそうだろうね、カイ。君はずっと冷静だった」
『ケイは、…ずっと明るくて羨ましかったよ』
言い淀みながらも、苦い顔をしながらそう言った。夏
の日差しみたいにカラリと笑った彼は、すうっと青い
空に溶けていった。僕の頬を、涙がつうと伝った。
「ねぇ、カイ。」
君は、君は。僕の大切な君は。
「 、 …。 ? 」
きっとこの声は、波音に耳を澄ませた者のみが
知るのだろう。僕の声は、すぐに波音に飲み込まれて
いくのだった。
部活帰り、コンビニで買ったアイスを食べながら
自転車を引き、友達と帰る。
「あー…あっちぃ」
『分かるわ。喧嘩売られてんじゃね』
「誰にだよ」
『天気』
「んなわけないだろ」
そのとき、ふわりと爽やかな風が頬を撫でた。
青くて、涼しかった。滴る汗も流してくれるような
風だった。
「あ〜…夏も悪くないかもな」
『こんな風がずっと続いたらな』