隠れタバコで停学になったクラスメイトが裏庭に来ている。彼はそこで落書きをしている。
目がいいわたしはその落書きの絵の中に、隠れミッキーを見つける。
そのミッキーがわたしの脳裏に焼き付いて離れない。脳裏のミッキーはこう言った。
やあ、ぼくバンクシー!
なんのことやらと戸惑っていた日のことを、わたしはときどき思い出す。
意味がないことを書きなさい。
という宿題が出たので、「こんな宿題を出すこと」と書いて、さっさと宿題を終わらせた。
次の日学校へ行くと友だちが、「意味がないのでやりませんでした」と言った。
なんか、負けた気がした。
コンビニでおにぎりを買おうとした手が触れ合う。
こういうのは、図書館とか本屋で同じ本に手をやるやつではなかったかとわたしは思うが、おにぎりでは情緒がない。けれど、触れ合ったその人が、あなたであったから、つい話かけてしまった。
「好きな人いますか?」
「いるよ 」
「どんな人ですか?」
「昔バンドやってて、今はソロになって20周年を迎えた人。君はいるの? 好きな人」
「いますよ。『拝啓、ジョン・レノン』とかを歌う人です」
あなたとわたしは、おにぎりをカゴに入れ、手を繋いだ。
友だちが雨の中を遊びにきたある日。
傘も刺さずによく来たね、と僕が言うと、柔らかい雨だから濡れないよ、と友だちは答えた。柔らかい雨だと濡れないの? だからそうって言ってるじゃん。それってどういうこと? どういうことって言われても。確かに濡れてないけどさ。そうでしょ、それが答えだよ。
そんなことを話したなと思い出しながら、空を見上げている。雨が降っているのがわかるけれど、僕はまるで濡れていない。
これが柔らかい雨?
そうだよ。
空からそんな声が聞こえてくる。
きっとあのとき、友だちは大事な人を失くしたんだ。
僕が君を失くしたように。
クリームソーダのストローに一筋の光が差して、グラスがスクリーンになった。
「あなたの人生」というタイトルが現れたので、急いでそれを飲み干した。
これはたぶん死んだあとに見るやつだと、気が付いてよかった。