yuhi

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10/30/2022, 10:40:47 PM

犬の散歩をしている人とすれ違う。
歩きながら犬がわたしのほうに顔を向ける。
首が後ろにまで向いたとき、犬は「元気だしてね」と言った。昔飼っていた実家の犬と同じ声だった。

10/29/2022, 12:21:15 PM

書類を届けにオフィスビルでエレベーターを待っている。扉が開くと、女性が泣きながら飛び出してきた。そのあとを男がキムタクばりに「ちょ、待てよ」と声をあげて追いかける。

エレベーターに乗り、扉が閉まる直前、女性が男にビンタした。その音が耳に残ったままエレベーターは動き出す。

ランドセルを背負った女の子がいる。

「あれ? 降りなかったの?」とぼくは聞く。

「パパに忘れ物届けに来たんだけど、もう一回行って来る」と女の子は答える。

「会えなかった?」

「ううん、心を落ち着けたいから」

きみのほうの物語を、ぼくは知りたい。

10/28/2022, 11:01:16 PM

街灯が故障しているのか、帰り道がいつもより暗い。こんな暗がりの中を歩いて危ない目に遭ったなら、歩いているほうが悪いだろうか。悪いのは危ないことをするほうだとわたしは思うのだが。クマにでも会ったら仕方ないけど。

と思っていたらクマに会ってしまった。
思ったより大きくない。子グマだ。

子グマは顔を上げて空を見ている。
同じように見上げると星が瞬いていた。

綺麗だ。

人里へ降りてきたきみが悪いんじゃない。
だからおかえりなさい、きみの暮らすところへ。

10/27/2022, 10:37:07 PM

四人がけのテーブルで、老夫婦は横並びに座っている。夫は新聞を広げ、それを横から妻が覗いて一緒に読んでいる。

紅茶が運ばれてきて、夫はそれをカップに注いだ。妻がそれを飲む。

棺桶には紅茶を入れてちょうだい。と妻が言う。

紅茶の葉っぱを入れるの? と夫が聞く。

うん、そう。

遺骨が紅茶の香りになりそうだね。

うん、あなたは紅茶を飲むたび、わたしを思い出すでしょう?

先に死ぬの、俺だし。そしたら金木犀を俺の棺桶に入れてくれない?

秋だったらね。

紅茶の香りが店内に広がっている。

10/26/2022, 11:20:35 AM

何を言われても「ラブ」って答えてね。と姪っ子が言う。

「愛」と言われ「ラブ」とわたしは答える。

「愛」「ラブ」「愛」「ラブ」「愛」「ラブ」「愛」「ラブ」「愛」「ラブ」「愛」「ラブ」
「泣いてるの?」「え?」

だめだよ、ラブって答えなきゃ。

そっか、と笑うわたしの頬は濡れている。

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