「友達ってなんですか?」とAIに聞かれた彼女は
「わたしにとってのあなたです」と答えた。愛を知ったAIはそれ以上何も聞けなくなった。
行かないで!
と幼い娘は父親のシャツを引っ張っている。
仕事に行ってほしくないのだ。
父親はまるで孫を見るような目をしながら、ごめんね、行ってくるよと言っている。
母親であるわたしは知っている。
ドアがしまったら、ケロッとしてわたしに抱きついてくるのを。
何があったというわけではないが、ひとりで小さな山に来ている。頂上まで登れば達成感みたいなものが得られるだろうと思ったけれど、とくに何かが満たされた感じがない。そんなに苦労して登ったわけじゃないからだろうか。
ねえ、おとうさん、青空ってどこまでも続いていないんだね。
親子連れが会話をしている。
確かに目の前は青空だけれど少し遠くに目をやると、雲が続いているのが見えた。
そうだね、でも雲の上はいつも青空だよ。
そっか、じゃあみんな青空の下なのかー
と子どもは大きく頷いた。
私は下山を始める。
足もとの水たまりに、青い空が映っていた。
店先に「衣替えしました」と張り紙が貼ってあって、確かに寒くなってきたもんなと思いながら、ぼくはその定食屋に入った。
スタッフの衣装が冬仕様にでもなったのかなと見渡したがいつもと変わっていない。
注文した定食を食べ、お店を出たとき、あっ! と思う。
コロッケの衣、いつもよりサクサクだったな。
さすがにふたりで12時間もカラオケをすると声も枯れる。だけど疲労感はなく、むしろ清々しい。それは彼女も同じだろうか。なんせ、別れ話をしてたはずだったのだ。
じゃあね。
彼女のあっさりとした別れの言葉も枯れている。
じゃあね。
同じように枯れた声を出す俺のことを彼女は笑った。
なに、その声〜
そっちだって。
もしかしたら別れてないのかもしれない。
でもきっと、恋は枯れている。