今どきこんな教師がいるのかっていうほど、その教師の威圧感は半端ない。
授業はいつもピリピリしていて、まるで刑務所の中みたい。刑務所の中に入ったことはないけれど。
何か問題を起こしてクビになってしまえばいいのにと誰もが思っているはず。というか、こんな緊張感にさせてるのがもはや問題なんだけど。
あー、さて。
窓の外には小人がいるけれど、それに気付いているのはわたしだけだと思う。
さっきから小人はニコニコしながら、ゆらゆらと揺れている。
教室の空気が変わったのは、そのときだ。
黒板に文字を書く教師が、ゆらゆらと揺れだした。
その様子にみんなが引いている。何か恐ろしいことがおこるんじゃないか、そんな空気が漂う。
わたしは小人と教師を交互に見る。
どうやら小人に気付いているのはわたしだけではないみたいだ。
たぶん黒板の向こうで教師は、ニコニコとしている。振り向くわけにはいかないんだろう。
素直になればいいのに。
ね? とわたしは小人に目配せをした。
小人はニコニコと頷いた。
水って形があるのかなあ。
と彼がつぶやく。
あるでしょ。
と彼女は答える。
でも、コップに入ればコップの形になるし、手で掬えば手の形になるし、海に流れれば海の形になるよ。
わたしだってあなたに抱かれれば、あなたの形になるよ。からだもこころも。そのときちゃんとあるんだってわかる。人もほとんど水だから。
ほとんど水のふたりは、そんなことを話しながら、手を繋いだ。
友だちが引っ越した日、男の子はジャングルジムに登って、空を見上げた。
たぶん、もう会えない。
となりの町がどれくらいの距離なのか、男の子はまだ知らない。
あの子は四葉のクローバーを見つけるのが得意だった。
どうしてそんなに見つけられるの?
と聞いたとき、彼女はこう言った。
声が聞こえるんだよ。
わたしにそんな声は聞こえない。
わたしは彼女のことが羨しかった。
そんなことを思い出しているとき、電話がかかってきた。
彼女からだ。
久しぶりだね、と言うと、
声が聞こえたから電話したよと言った。
それはわたしがクローバーだってこと?
と冗談ぽく言ってみると、彼女は当たり前のように「うん、そうだよ。わたしの幸運のお守りだよ」と答えた。
わたしのすべてが報われた気がした。
緑の葉っぱの木の中に、一枚だけ赤く色付いた葉っぱがある。
あの葉っぱはきっと恋をしている。
あなたのとなりを歩くわたしが、そうであるように。