暖かく優しく包むように降る、そんな雨が好きだ。
こんな雨なら打たれていてもいい。
家の中にいても、窓を開けて、少し薄暗い空を見上げてしまう。雨が部屋の中に吹き込んでも困るから、すぐに閉めてしまうけれど。
雨上がりの空に掛かる虹も好きだ。
そういえば、この間、久しぶりに空の端から端まで掛かる虹を見たよ。
窓を開けたら視界いっぱいに広がる虹が飛び込んできて、それは綺麗だったなぁ。
それだっていうのに。
今日の雨はなんだ。
殴り掛かるような、そんな激しい風と雨。
こんな時季にこんな天気あったっけ? 台風でもないのに? 気温もなんだかおかしいし、異常気象ってやつだ。
気候が変わってきてしまっているのか。元に戻るのか心配だ。
また、あの柔らかな雨に打たれたい。穏やかな気持ちで移りゆく世界を感じたいんだ。
『柔らかい雨』
あぁ、駄目だ……。
負ける。俺は死ぬのか。
世界の平和を託された俺は、勇者として魔王を倒す旅に出た。
長い旅路の果てに、魔王と対峙した俺は、魔王の強烈な一撃に倒れてしまった。
視界が闇に染まる。
俺が死んでしまったら、世界はどうなるのだろう。
大切な人達。世界の平和を祈るみんな。家族や、地元に残してきた大事な人。
みんなの希望を背負ってここまで来たのに。
自分の命が尽きることより、失いたくない、みんなの顔が浮かぶ。
でも、もう何も見えない。
ごめん。みんなごめん。
その時、瞼の向こうに、うっすらと一筋の光が差し込んでくるのが見えた。
「トドメだ!」
魔王の唸るような低い声が轟く。
必死に目を凝らす。
魔王の胸の辺りにどす黒い光が集まっている。最後の一撃を放つ為に魔力を溜めているのだろう。
ここだ。
禍々しい光が、今は希望の光に見える。
そこを目掛けて、全ての祈り、力を込めて剣を投げつける。
剣は闇を切り裂くように真っ直ぐ進み、魔王を貫いた。
『一筋の光』
哀愁をそそる。
哀愁をそそる。
――哀愁をそそる……って何?
哀愁を誘うという表現ならよく聞くけど、哀愁をそそるって表現はあんまり聞いたことがないよ? 何なら初めて聞いたよ。
いやわかる。なんとなく、どんな感じなのかは、こう、ふわっと、わかる……わからなくはない。
しかし、そそるって何か……何か違わない? どう違うのかはっきりこうとは言えないけど、でも、なんとなく違わない? 違和感を感じているのって自分だけ? じゃないよね?
気になってしまったら、もうもの悲しい話を考える余裕もなく、ただひたすらにこの言葉は何なのか。どういう時に使うのが違和感がないのか。そんなことばかり考えてしまう。
こうやって、一つのものに捉われて、他の視点を持てないって悲しいね。哀愁をそそらない? 違うか。
『哀愁をそそる』
「お前は誰だ?」
鏡の中の自分に問いかけてみた。
聞いたことはないか? 鏡に映った自分にそう問いかけ続けると狂ってしまうという都市伝説。
最近仕事も辞めてしまって、やらなきゃいけないことはいろいろあるものの、やる気も起きないし、でも時間はあるからって、ちょっと試してみたんだ。
まぁ予想通りだよ。アホらしい。
特に何も起きない。
でもせっかくだから、毎日続けてみたんだ。日課のように。
いつも結果は同じ。鏡の中の自分は、こっちを見つめてくるだけ。
……あれ?
なんでこいつこっち見てんだ。違う。いいのか。あれ?
いや待て。お前は誰だ? 鏡の中に知らない人がいる。知らない? 違う。鏡の中だから俺に決まってるだろう。
気付けば視線が気になるようになっていた。いつも見られている。監視されている。
鏡を覗く。見ている。
違うって。何も変わってない。何も起きてない。何だよ。その手に持った金鎚は何だ。
何か壊れるような大きな音がした。
鏡にはバラバラになった(おそらく)自分が映っていた。
『鏡の中の自分』
あーだめだ。
眠りにつく前に……コンタクトを外して、化粧を落として、ご飯を食べて、歯を磨いて、お風呂も入らなきゃ。せめて○ケモンスリープは起動しなきゃけないのに!
あー無理だ。
今日も疲労と睡魔に負けて、一瞬で夢の世界へ。
『眠りにつく前に』