『ハッピーエンド』
魔王が倒され、空を満たしていた瘴気は晴れた。
世界に平和が戻ったのだ。
勇者は城に帰り姫と婚約。
魔法使いはまた旅に出て、
闘士はさらなる強さを求め、
盗賊も真っ当な仕事についた。
皆変わっていく。
平和はいいことのはずだ。
暗かった皆の顔は笑顔に満ちている。
寂れた町も活気が戻った。
いいことのはずなんだ。
…………でも、まだ旅を続けていたかったなぁ。
みんなで馬鹿やってたかった。
恋慕する人の傍にいたかった。
紛う事なき〚ハッピーエンド〛、私にとっては〚ビターエンド〛で〚バームクーヘンエンド〛。
______お慕いしておりました。勇者様。
一僧侶の私に想いを返して欲しいだな
んて思いません。ただ、心の隅には置
いてください。
『過ぎ去った日々』
若かった頃の自分に思いを馳せる。
友達と共に過ごした日々。恋心を打ち明けた日。
笑い合って帰っていた。
もう一度、あの日々を過ごしたい。
寝台の上で微睡む。
揺れる感覚は、母の腕の中にいるようだった。
「おばあちゃん!」元気の良い声で目が覚めた。
まだ眠気が残っているが、目の前の孫の顔は何かを話したいようで、ずっときらきらしている。
「あのね、今日はね____」
話し始めたが、私の耳にはあまり届いていなかった。
ただ、嗚呼、私はもう「おばあちゃん」なんだ。
と、あたりまえの事を思っていた。
思えば若い頃も日々をぼうっと過ごした。
なんとなく友達を作って、なんとなく好きな人ができて。なんとなく結婚した。
過ぎ去った日々は、こんなにも長かったのだ。
ふいに、涙が零れた。なぜ、もっとちゃんと生きようと思わなかったのか。
病に蝕まれ、もう歩くことすらも叶わない、こんな体になる前に。
しかし、同時にこんな事も思った。私があの人と結婚しなければ、今目の前にいる子は生まれていない。
もし、違う人を選んでいたら、子も、孫も、生まれていなかったかもしれないのだ。
私がしてきた選択はお世辞にも正解とは言えないだろう。
だけど、私がいなければ生まれない命が目の前にあった。
それを、心底愛しいと思った。
『お金より大事な物』
ありすぎる。
命、愛、希望、etc………。
この世界は価値のあるものばかり。
『月夜』
とある月夜の晩でした。
きらきら、ふわふわ、と何かが飛んでいました。
泣いていたおんなのこは空を見上げました。
空を蝶たちが飛んでいきました。
淡藤色の、硝子のように脆そうな蝶でした。
“いっしょにいこう”と蝶たちが呼んでいる気がしました。
ああそうだ。わたしは、もう____。
気が付けば空は何十羽もの蝶に覆われていました。
おんなのこは蝶たちに連れられて空へ昇っていきました________。