『ハッピーエンド』
魔王が倒され、空を満たしていた瘴気は晴れた。
世界に平和が戻ったのだ。
勇者は城に帰り姫と婚約。
魔法使いはまた旅に出て、
闘士はさらなる強さを求め、
盗賊も真っ当な仕事についた。
皆変わっていく。
平和はいいことのはずだ。
暗かった皆の顔は笑顔に満ちている。
寂れた町も活気が戻った。
いいことのはずなんだ。
…………でも、まだ旅を続けていたかったなぁ。
みんなで馬鹿やってたかった。
恋慕する人の傍にいたかった。
紛う事なき〚ハッピーエンド〛、私にとっては〚ビターエンド〛で〚バームクーヘンエンド〛。
______お慕いしておりました。勇者様。
一僧侶の私に想いを返して欲しいだな
んて思いません。ただ、心の隅には置
いてください。
『列車に乗って』
拝啓 山本清 様
梅の香りが爽やかに漂う春暖の候、いかがお過ごしですか。
この間は簪を送ってくれてありがとうございます。
黒い宝石が綺麗でよく挿しています。
ところで簪を送る意味、調べてみました。
ふふふ。粋なことをなさるもので。
お返事はまた会えた時にします。
そうですねえ、暇をもらえたらそちらに向かいます。列車に乗って景色でも眺めながら、ゆっくり行かせていただきます。
まだまだ寒さも残るので、体調に気を付けてくださいね。
松山千代 より
『現実逃避』
はらり。数枚の紙が落ちる。
拾い上げて、じっとみてみる。
描いた絵も、書いた文も、全部ぐちゃぐちゃ。
子どもの落書きのよう。
書いても書いても、描いても描いても、
変、間違ってる、書き直そう?
そんな事を言うもう一人の私が居る。
「…五月蝿いなぁ」ぼすん。布団に潜る。
眼を閉じて、夢に潜る。
もう、〚私〛の声は聞こえない。
優しくて易しい世界。
『太陽のような』
あなたのその太陽のような笑顔に
救われたの。
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眩しいその顔に、灼かれるような
感覚を覚えた。
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きっとみんなの太陽になれると、
信じていた。
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君の笑顔は、真っ黒な僕には
眩しすぎる。
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私の太陽はあなた。
100年先もきっと変わらない。
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太陽 ss
『待ってて』
バレンタイン。それは、私たち学生のイベント。
校内もいつもより浮足立っている。
目を光らせる先生、誰に渡す?と話す女子たち。
毎年恒例の風景であった。
私はというと想いを寄せる男子に「待ってて」なんて言ったのに、行けない。
扉を開ければすぐそこなのに。
開けれない。行けないよ。
扉一枚隔てた先から、チョコを渡す声と、嬉しそうに返事をする彼の声が聞こえるから。
何年もあたためた心と、彼のためと作ったチョコレートは、鈍い音を立てて割れた。