「どうして争わなければならないのですか!」
宙に留まる我の見下す先に、喚くひとりの人間がおった。左手には人間と同じサイズの盾、右手には人間よりも長い槍を力強く握りしめ、果敢にも我と対峙しておる。
「つい先日まで、私たちはお友達だったじゃないですか! 私が、私だけが友達だと思っていたのですか!?」
「あぁ、そうであったな。我も貴様を友人だと思っておった。だがそれも、先日までの話。貴様は人間で、我は妖怪である。互いに敵になってしまったのだ。こんな世界で、我々ももう、仲良くはできまい」
我は人間を威嚇する意味で、9本の尾で強風を巻き起こした。人間はたったそれだけで吹き飛びそうに足を崩し、よろめき、それからようやっと体勢を立て直す。
なんと、愚かな。
それほどまでに弱いのにも関わらず、我に立ち向かおうとする心意気。
我の攻撃が一撃でも当たれば、息の根が止まることなど分かってるであろうに、話し合いから試みる心意気。
それから、何よりも
「人間と妖怪が分かり合える筈はないんだ。妖怪を殲滅せよ!」と、勝手なことを言ってこんな小娘にまで強要する、立派な立派な人間共。
全てがあまりにも愚かで、あまりにもちっぽけすぎる。我がここで小娘を見逃そうとも、小娘は人間に潰されるだろうな。
であれば、我がやらなければいけないことはひとつ。
小娘と真剣に対峙し、口には出せぬ思いを伝えてやるだけだ。
どちらかの命が、燃え尽きるまで。
#命が燃え尽きるまで
ビルの屋上で、前を向く。星の声が聴こえてしまいそうな、夜明け前だった。
きっと、間近で見れば首が痛くなりそうなくらいに高い高いビル達が、今は小さな影となって景色の一部に溶け込んでいた。
薄らと色づき始めていく空には、白い星が未だに瞬いていて。全てを包み込むような淡い光の月と、そんな星々と。黒、青、白、橙、赤……と続く、人類にはあまりにも広大すぎる空の中で。
私は、今日死のうと決めた。
世界の誰かは、こんな私を「馬鹿だ」と罵るだろう。分かっている。私だってそう思う。
だけど、仕方なかったんだ。
どうしても、上手く生きられない。
どうしたって、上手く息ができない。
誰に何を言われても、何をして過ごしていても、「苦しい」という思いから逃れられなかった。もう我慢したくない、とも思った。
友達ができた。
上司ができた。
先輩ができた。
後輩ができた。
親友もできた。
恋人もできた。
大切だと思えること。大切だと思える人は、たくさんできた。その中で、ずっと自分だけが大切にできなかった。
だから最期くらいは、自分を大切にしたくて。
私が何もかもを忘れて、頭も心も空っぽにして、眼前に広がる「綺麗」で私の全てが埋め尽くされる。
そんな時間で、さよならを。
#夜明け前
本気の恋、って
___なんなのか?
相手のことが好きで好きで堪らないこと?
苦しくなって、辛くなって、泣いてばっかりで。
それなのに、一緒に居る選択をすること?
本気で恋したことなんて、私の人生であっただろうか。
好きになったことがない。告白されたら、なんとなく付き合った。私の空白を埋めてもらおうとした。とりあえず、隣に居てみた。望まれるまま、身体も差し出してみた。
そして、埋まらなかった。空白は、空白のままだった。好きになることもなかった。相手のほんの些細なことに……そう、私に対して不満を一言でも溢した瞬間に、私は相手がどうでもよくなった。
じゃあ、別れましょう。と別れることの繰り返し。
そんな私が、本気の恋なんて、冗談でもできるものか。こんな私が、本気の恋なんて、一生かけてもできるものか。
他人に縋り続けるだけの私に、人を愛することなど不可能に違いない。
だから、
たった1人からの告白を待ち焦がれてるだなんて、
きっと勘違いに違いない。
#本気の恋