夏川流美

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 ビルの屋上で、前を向く。星の声が聴こえてしまいそうな、夜明け前だった。




 きっと、間近で見れば首が痛くなりそうなくらいに高い高いビル達が、今は小さな影となって景色の一部に溶け込んでいた。

 薄らと色づき始めていく空には、白い星が未だに瞬いていて。全てを包み込むような淡い光の月と、そんな星々と。黒、青、白、橙、赤……と続く、人類にはあまりにも広大すぎる空の中で。




 私は、今日死のうと決めた。




 世界の誰かは、こんな私を「馬鹿だ」と罵るだろう。分かっている。私だってそう思う。

 
 
 だけど、仕方なかったんだ。



 どうしても、上手く生きられない。
 どうしたって、上手く息ができない。



 誰に何を言われても、何をして過ごしていても、「苦しい」という思いから逃れられなかった。もう我慢したくない、とも思った。


 友達ができた。
 上司ができた。
 先輩ができた。
 後輩ができた。


 親友もできた。
 恋人もできた。


 大切だと思えること。大切だと思える人は、たくさんできた。その中で、ずっと自分だけが大切にできなかった。



 だから最期くらいは、自分を大切にしたくて。


 私が何もかもを忘れて、頭も心も空っぽにして、眼前に広がる「綺麗」で私の全てが埋め尽くされる。





 そんな時間で、さよならを。








#夜明け前

9/13/2023, 10:24:40 AM