何処か、深い場所に
落ちていく
戻れなくなる
落ちるの反対は
上がるじゃないから
彼処に帰る事はない
『スマホの中の世界は
かなり不思議な場所だ』
あの子は、
いとも容易く
そう、言い放った
スマホに触った事がないと言うあの子は
流行りの物を知らなかった
『草』ってどういう意味か分かる?
冗談混じりに聞いてみた
すると、あの子は
…意味?
ネガティブな言葉かなぁ
貶す感じの…
そう言った
…。
あの子は
変わった子だったから
『あの世界』の可笑しさに
直ぐに気づいたみたい
あの子が落ちる事は
無いのかもね
今のところは…
夫婦の正しい形ってなんだろう
ママもパパも
教えてはくれなかった
だけど
『あい』というものがあれば
二人は夫婦になれるらしい
なら、良かった
『夫婦』には『あい』がある
今は無くとも
昔に
確かな痕がある
今日は
十一月二十二日
365回来る日の
一日である
そして
もう終わる日でもある
今日が
『夫婦』の『あい』が
"あった"日になりませんように
「どうすればいいの?」
先生からの問いに
私達は黙り込んだ
先生の、こんなに悲痛な声は
初めて聞いたので
誰も動かず
誰も動けず
ただただ
先生を見ていた
その行動が
先生の追い討ちになると知りながら
何故こうなったのか
漠然と考えていた
「貴女の夢、とっても素敵ね」
「頑張ってね。…私の出来なかった分まで」
「絶対に許せない…」
先生の言葉が
心を覆い尽くして
やるせない気持ちは
飽和状態だった
どうすれば良かっただろう
どうしたとしても
この結末が、最善だった
あなたの宝物は何ですか?
そんな問いに
彼はこう答えた
「それはきっと、時間だ」
宝物が時間?
あの時は、
全く意味が分からなかった
今なら、
少しだけ分かる
あの
永遠に続くように感じた時間
儚い物だと気づくには
あまりに遅かったから
…今が永遠のように感じてしまうから
…こんな事をしてるから
終わりが見えなくなるんだ
彼が笑った気がした
ある日のことだった
君が気まぐれで買ってきた
インテリアのキャンドルが気になって
使わなそうだったから
火をつけてみた
まぁ…昼間は
案の定、炎が見えづらくて
カーテンを閉めて
照明を消したんだ
すると
炎が力強く
存在を主張した
微かな風での靡く様さえ
なんだか綺麗に見えた
それで昔、
君が話していた事を思い出した
「星の光は、昼間は太陽に消されてしまうの」
キャンドルの炎は
太陽に砕かれた心に
小さな星を灯した