【善悪のカクテル】
ここに、善の酒と悪の酒があります。
私めがお客様に合わせ、混ぜ合わせます。
どうやら貴方様は、些か善に寄り過ぎているご様子で。
この世の中、悪を知らなければより良い善は目指せません。
ほんのり罪が混じった、純粋から卒業する味。
どうぞご賞味下さいませ。
【手のひらの上】
遠き日に願った。
己を輝かしい目で見つめる彼と、同じ様になれないかと。
流れる星に願った。
夜の空を切り裂く貴女と、同じ様になれないかと。
そんなすれ違いは、何度も続く。
そんな事に、二人は気付かない。
気付ける筈が無いのだと、神は笑って酒杯を傾けた。
【人は過去を今から知り、未来を今から予測する】
もしも今、未来をみれるなら。
そう願わずにはいられない。
この世界はもう終わりだ。
だったら、遠い未来に自然に還ったこの世界を見てみたいと願うのはおかしくないだろう。
娘は初めて見る都市の外と、人口植物では無い荒れ果てた大地にか細く残る自然に目を輝かせている。
子供のその澄んだ心は、現実を突きつけながらも夢を見させてくれる。
娘の手を離し、乗組員へと任せる。
私も共に行けたらと思わずにはいられないが、それは高望みというものだろう。
せめて娘には、私の様な男よりもいい人間と結ばれて欲しいと願う。
私の他にも、子を見送る親がいる。
だが、それも数える程だ。
この船に乗れるのは、政府の高官などといった上流階級だ。
子供が乗れるのは、次世代の世話係の繋ぎ。
そうと分かっていても、このままこの世界にいるよりも長く生きれるのだから。
時間が許す限り、娘が乗る船を見送る。
⸺今、未来を知っていたなら。
私は娘を船へ乗せなかった。
出立して数時間後、船を建造出来なかった国の攻撃により撃ち落とされた事を知っていたのなら。
【逃げ道無しの神様道】
捧げます。我らが神に。
愚かにも、単独で邂逅しようとした、貴方の信者を名乗る偽物を。
貴方が欲されたので、捧げます。
我らの神よ、貴方は知っている筈だ。
我々の神様への、捧げ物は貴方であることを。
逃げようだなんて、思わないで下さいね。
貴方は我らの神なのですから。
【老いたからこそ、挑戦を】
遥か遠い空から離れ、どれほどの年月が経ったのだろう。この地の底は人口太陽と天井に貼られた偽の空で作られた変わらぬ天気しか無い。
己の背の羽は墜ちた原因の怪我が治ってからは、かつての栄光から程遠く赤子よりも小さくなってしまった。今まで、戻ろうにも確実に戻れる保証が無くなっていたのだ。
地底の住人が嫌いという訳ではない。彼らは気が良いから、離れがたくなってしまうのだ。姿形が違う己にも、偏見無く関わってくれるのも、精神に優しかった。
だが、己はもう老いてしまっている。ならば最期だと思い、以前から見つかっていた大穴から、地上を目指すことにした。
大穴には多くの危険があり、地底の彼らでも安易に手を出せない地だ。だからこそ、いつ死んでもいい今の己は行くのだ。
あの、遠き空へ。
あの、生まれ故郷へ。
雲よりも高き大地へ。