【君の名前を呼んだ日】
隣で眠っている筈のあなた。
口元から小さく唸る声が漏れていて、苦しそうに掛布を握り締めているのが、薄暗い寝室に浮かび上がる。
「んー、かっちゃん?起きて。目、開けよっか。ね、開けられそう?」
ひとつ伸びをして、欠伸を噛み殺しながら、力強く握り締めた手の甲に自分の手を乗せて、ゆるゆると揺らす。
「かっちゃん、戻って来てー。オレここに居るからさ、目開けよ。ね、開けられそ?」
トントンと肩を叩いて、呼び掛け続ける。
「―――っ!」
上半身を勢い良く起こしたあなたの背中を、そっと擦る。
「おかえり、かっちゃん。嫌なモノでも見ちゃった?忘れられそうなら置き捨てて。覚えてたら、吐き出しちゃお?」
ぽろぽろと眦から水滴が落ちて、苦しそうな呼吸に胸がキュッと締め付けられる気がした。
「カズ…。居なくなったかと思った。」
震える声と荒い呼吸が、強張った身体から出ている。
「おや?カズくんは、此処に居ますよ?」
呆然としているあなたの身体に、するりと自分の身を滑り込ませて、トントンとあやす様に背中を叩く。
「もう、大丈夫。かっちゃんが戻れなくなったら、かっちゃんを呼ぶね。戻ってくるまで呼ぶから、戻って来て?」
涙が頬を伝った跡を掌で拭って、放心している額に唇を寄せた。
「…うん。ありがとう。」
あなたの背中をトントンとあやす様に叩きながら、片方の手を後頭部へ当てて自分の方へと抱き寄せる。
「かっちゃん、大丈夫。」
深呼吸する音と強張った身体から力が抜けて行くのを感じながら、あなたの身体を抱き締め続けた。
【そっと包み込んで】
「ねぇねぇ、あのね。」
あなたはとてもおしゃべりで、くるくると良く動く感情を正しく上手に表現できて、明るく社交的。
「かずくん。ちょっと良い?」
だから、その明るさに辛いことも悲しいことも包んで隠してしまうのも大得意で。
「え?なに、なに?かっちゃん!どうし…ふぇ?」
ちょっと来て、と手招きして、すっぽりと抱きしめてしまう。
「お疲れ様、ちょっと休むの手伝って欲しい。」
あなたの匂いが心地良くて、抱きしめた体温が暖かい。
「んぇ?かっちゃん、お疲れ様?」
えへへ、と嬉しそうに弾む声が少しだけ揺らぐ。
「和真、お疲れ様。大変だったでしょう?今日と明日は、ゆっくり休もう。」
とんとんと、あやすように背中をゆっくりと叩いて、ゆっくりと囁くように呟く。
「えへ、あ、あれ?な、なに…?や、ま、まって、ま―――っ!」
目一杯に頑張っている背中を心を労りたくて、後頭部を撫でながら自分の肩口に相手の顔を埋めさせる。
「かっちゃん、ずるいー。」
泣き顔は見せたくないと気を張っているのも、笑って済ませてしまえと意地を張るのも、いじらしくて良いけれど、今は流せるのなら流してしまって欲しかった。
昨日と違う私