たろ

Open App


【君の名前を呼んだ日】

隣で眠っている筈のあなた。
口元から小さく唸る声が漏れていて、苦しそうに掛布を握り締めているのが、薄暗い寝室に浮かび上がる。

「んー、かっちゃん?起きて。目、開けよっか。ね、開けられそう?」
ひとつ伸びをして、欠伸を噛み殺しながら、力強く握り締めた手の甲に自分の手を乗せて、ゆるゆると揺らす。
「かっちゃん、戻って来てー。オレここに居るからさ、目開けよ。ね、開けられそ?」
トントンと肩を叩いて、呼び掛け続ける。
「―――っ!」
上半身を勢い良く起こしたあなたの背中を、そっと擦る。
「おかえり、かっちゃん。嫌なモノでも見ちゃった?忘れられそうなら置き捨てて。覚えてたら、吐き出しちゃお?」
ぽろぽろと眦から水滴が落ちて、苦しそうな呼吸に胸がキュッと締め付けられる気がした。
「カズ…。居なくなったかと思った。」
震える声と荒い呼吸が、強張った身体から出ている。
「おや?カズくんは、此処に居ますよ?」
呆然としているあなたの身体に、するりと自分の身を滑り込ませて、トントンとあやす様に背中を叩く。
「もう、大丈夫。かっちゃんが戻れなくなったら、かっちゃんを呼ぶね。戻ってくるまで呼ぶから、戻って来て?」
涙が頬を伝った跡を掌で拭って、放心している額に唇を寄せた。
「…うん。ありがとう。」
あなたの背中をトントンとあやす様に叩きながら、片方の手を後頭部へ当てて自分の方へと抱き寄せる。
「かっちゃん、大丈夫。」
深呼吸する音と強張った身体から力が抜けて行くのを感じながら、あなたの身体を抱き締め続けた。

5/26/2025, 10:12:22 AM