【二人ぼっち】
独りより、ふたりが良い。
二人ぼっちなら、なお良い。
あなたを誰かに掠め盗られるくらいなら、
ふたりっきりが良い。
そんな女々しさも、あなたは吹き飛ばす様に笑うので、つられて笑ってしまう。
似た者同士の二人は、世界で二人ぼっちになっても、きっと変わらず二人ぼっちで過ごすのだろう。
【夢が醒める前に】
夢で逢えたら?
夢なら覚めないで?
あなたなら何を願う?
あなたなら何を祈る?
「相手によるけど、普段と同じように挨拶しちゃうな。またね、とか。かっちゃんが相手だったら?追い駆けるね。居なくなっちゃうかも!って、焦るもん。で、飛び起きて、隣にちゃんと居るか、確認する。」
あなたはどうなのか尋ねると、驚いた顔でポツリと呟く。
「夢の認識があるから、早く醒めないかなって思ってる。当事者の時は、ロクなことないから、余計に。」
あまり夢見が良くない様だと思った。
「かっちゃんの夢に出られたら良いのに。イヤなヤツは、押し出しちゃうのになぁ。」
全部忘れてしまえば良いのに、と考えてしまう。
「カズくんが出て来る夢とか、嫌だ。目が醒めたら、居ないかもしれないとか…。」
呼んで欲しいとあなたに伝えて、今夜はイヤな夢は見せてやらない!と意気込んで、あなたと一緒にベッドへと潜り込んだ。
【胸が高鳴る】
胸が高鳴る時は、どんな時だろう。
「かっちゃんと一緒の時、だね。」
久し振りにあなたに会える時。
あなたと一緒に出掛ける時も。
あなたと一緒に眠る夜は?
ドキドキし過ぎて、正直眠れないし、色々あり過ぎて、ほぼ気絶している。
あなたはどうなのだろう。
「いつも、だけど…。」
少し離れたり、一緒に出掛けるとドキドキが止まらない。
一緒に眠る時は、夢中になり過ぎて、気を失っている。
なのに、一緒に居ると一番落ち着くのだから、不思議なものだ。
『不条理』
正しい事が、正しくない事になる。
社会に出てから遭遇した不思議な感覚。
誰かの正論が、他の誰かを傷つける事とも少し異なるそれは、やはり大人の気配がした。
昔話に散りばめられた綺麗な毒は、それと知らずに飲み込んで帰らぬ者たちのみ知る語り種。
知らずに愛でて育てれば、頭から食らう食人花になるのだろうか。
摩訶不思議な奇説ならば、面白可笑しくも楽しめようけれど。
きっと誰も知らぬまま、朽ちるに任せる屍の如く。
あぁ、おそろしい。
※閲覧注意※
IF歴史?軽率なクロスオーバー?
タイムトラベラーなモブちゃんが、普通に居るよ。何でも許せる人向け。
《泣かないよ》
水面に映る月を見下ろす。
『…きっともう、戻れないんだ。』
諦めるしかないと言い聴かせる程に、心は千々に乱れて涙が溢れそうになる。
「あら、暁。何を見ているの?」
後ろから掛けられた声は優しく、この屋敷の女主人のものと、理解している。
「まぁ、月が浮かんでいるのね。」
半分に近い、ふくよかな三日月が水面に浮かんでいるのを、女主人は隣から覗き込む。
「お月様、私は好きよ。あなたは、お好き?」
物怖じせず、声を掛けてくれる女性に、こくりと頷いて見せる。
「ふふふ、綺麗な月。」
女性を直視しないように気を付けて、池に浮かぶ月を見つめる。
「ねぇ、暁。お郷が恋しい?…ええと、お家に、帰りたい?」
部外者だと切実に感じていて、歴史を見ているのだと頭の片隅で理解もしている。
『帰る事が出来るなら、帰りたいです。でも、もう戻れないとも、思うんです。諦めるしかないのに、苦しくて。』
風に揺らぐ水面の月。女性の袖の端に触れて、答える。
「当然の事よね。辛い事を尋ねてしまって、ごめんなさい。ただ、あなたさえ良ければなのだけれど…。あの人の為に、ここに居て欲しいの。」
女性の大切な人。彼女の夫であり、最愛の配偶者。
(何で?新婚なのに…。)
最近、祝言を挙げたばかりなのだ、と周囲の奉公人に教えてもらった。
とても仲が良く、睦まじい夫婦であり、仕える身には誇りであると。
「あなたを独りにしてはいけない、と私は思っているの。だから、ここがあなたのもう一つのお郷になってくれたら、何より素敵な事だと思うの。」
見ず知らずの異質な自分を、躊躇いなく受け入れるこの女性が、今は何を考えているのか解らなくて、とても怖かった。
「あまね、何を…。あぁ、暁か。」
女性の夫がのそのそと近付いてくる。
にじり下がって平伏して、いつでもこの場を去れるように踵を持ち上げる。
「月が綺麗なのを教えてくれたの。一緒に見たくて。旦那様も、ご一緒なさらない?」
お酒を持ってくると言って、女性が立ち上がろうとするより前に、立ち上がってふたりの前から、逃げ出した。
(気に入られている内は、ここに居よう。)
駄目なら追い出されるか、首が飛ぶかするだろう。その時は、その時なのだ。
『もう、泣くのは止めよう。』
この世界で生きていく術を、身に付けようと決意を新たにした。