15作目 「夏」
夏は嫌いだ。
全てのものが暑苦しくなるし、日焼けで皮がめくれて脱皮みたいになるし、寝るとき暑いし…とにかく暑くて嫌いだ。
太陽が一番上に上がって、むせかえすほどの暑さの中、自転車をこいで急いで家に帰る。
玄関を開けると、空気がひんやりとしていたので、涼もうとクーラーのあるリビングへ足早に向かう。
リビングに入ろうとした時、なぜか汗だらけの君がリビングのソファーでくつろいでいた。
-なんで、君がうちにいるの
汗だらけのシャツをパタパタと浮かせながら君に聞く。
母がいれていたクーラーの冷たい風がシャツの隙間に入り、火照った僕の身体を冷やしていく。
-なっちゃん、あんたと宿題しに来たみたいよ。早く着替えておいで。
奥のキッチンにいた母が顔を覗かせて言ってくる。
母に着替えるように促されたので部屋に行き、着替えを済ませ、忌々しい夏休みの宿題を手に持ち、君がいるリビングに向かう。
-遅いよ「 」、待ってたのに
口を尖らせながら君が悪態をつく。
-連絡くらいしろよ。
君にそう言いながら、反対側の席に座る。
テーブルに宿題を広げていると、君の短い髪から覗かせている形の良い耳にはめていたイヤホンを僕に差し出してくる。
-これ、聞いてみて凄く良いから。
僕はイヤホンを受け取り、さっきまでイヤホンがはまっていた、君の耳を見る。
短い髪からは形の良い耳が覗かせており、うっすらと汗ばんだ真っ白な陶器のような君の首筋が目に入った。
ダメだと思いながら真っ白な肌が覗かせている君の胸元へついつい視線が行ってしまう。
視線に気付き目線をあげると、ニヤニヤと笑っている君の表情が目に入って来た。
胸の奥から熱が一気に吹き出す感覚がした。
恥ずかしさから何も言えずに固まっていると、ニヤニヤとした表情を崩さないまま君が唇を開く。
-すけべ
あぁ、本当に夏は嫌いだ。
昔の記憶が頭の中で甦っては消えていく。
声も顔もかろうじて思い出せるくらい掠れているのに、君と出会って別れた事実だけは今でも色褪せずに残っている。
暑かったのか寒かったのか、昼だったのか夜だったのか季節も時間もセピア色で掠れて分からなくなっている。
それなのに、君と出会って僕の死んだような心が動いたことだけは確かだ。
君の姿は、眩しいくらいに輝いていて、火傷しそうなくらいとても熱くて、泣きそうになるくらい切なくて、溺れそうなほどに苦しくて、声も出せないくらいに悲しくて、無防備な僕の心を殴り付けては動かしてくる。
あのときも…あのときも…あのときも……
競いあえる君がいたから、大切な貴女がいたから、尊敬できる貴方がいてくれたから、頼りになるお前がいたから、そして…あなたがいたから…。
-今の私がいる
「1年後」
-こんにちは1年前の僕
家のリビングでアニメを見てくつろいでいる時に、目の前に現れたそいつは、唐突に話しかけてきた。
何を言っているのか分からないと思うけど、僕にも何が起こったか分からない、でも、文字通りその場にそいつは突然現れた。
-時間がないから率直言うぞ。
-世界のために死んで欲しい。
-分からないと思うが今はこれしか言えない。
そう言って僕の声をして、僕の見た目をしたそいつはその場から文字通り消えた。
どれくらい時間がたったか分からないが夜になっていた。
僕自身に言われた言葉が頭に中で何回もこだまする。
訳が分からないまま1年が過ぎた…。
世界では治療不可能なウイルスが蔓延して人類が滅亡しかけているらしい。
ウイルスの発生源は僕で、未来の僕から感染されたらしい。
漫画か映画みたいだけどタイムマシンが出来上がり、
1年前の過去に3秒だけ行けるようになったみたいだ。
1年前に受け取った言葉を思い出しながらタイムマシンを発動させた。
-こんにちは1年前の僕
僕のせいで彼女が死ぬのは僕が死ぬよりも耐えられなかった…頼んだよ僕
「子供の頃」
子供の頃と言われても一言で表すことができない。
良いことも悪いことも、嬉しいことも悲しいこともたくさんたくさんあった。
数えきれないくらい嘘をついたし、数えきれないぐらい人からありがとうも言われた。
子供ころは、ばあちゃんやじいちゃんも元気だったけど、今では、立ち上がることすら辛そうに見える。
殺したいと思うほど嫌いな人もできたし、苦しくて狂うほどに好きな人もできた。
好きな子と二人きりになるために、同じ部活も入ったし、同じ趣味を見つけては話しかけた。
そんなあの子も私とは違う人と結婚をしている。
友達や家族と山にも行ってキャンプやバーベキューをして、海にも川に行って泳いだり釣りもした。
満点の星空を眺めて感傷に浸ったこともあるけど、バケツをひっくり返すような雨にうたれながら泣きながら帰ったこともある。
親からしたら私は、頭も悪く要領の悪い子供だったと思う。
それでも、私をここまで育ててくれた。
そして、産まれてきてくれてありがとうと言われたとき感情がぐちゃぐちゃになった。
そんな私が今では親だ。
私が子供だった時よりも、いろんなことをさせてあげたい、いろんなことを学んで経験して挫折して成長して欲しい。
ただただ、健やかに育って欲しいと心から思う。
-父も母もこんな気持ちだったのだろう。
父と母に言いたい、産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとうと。
そして、私の子供にいつか言おうと思う、産まれてきてくれてありがとう愛してると。
いつからだろうか
どこを見渡しても黒や白が溢れていることにきづいてしまった。
道路を見ても、駐車場を見ても、大体が黒や白といった目立たない色が溢れて、染めていってる。
家に帰っても、黒や白のモノトーンの色で染められている。
いつからだろうか…世間の目を気にして目立たないように、主張がないようにして、この国を染めて呼吸がしにくい世の中になってしまった。
あの人がこうしたから、この人がどうしたから、だからこうしなさい、こうなりなさいと言われ続け、そして私もいい続けるようになった。
-私はどうしたいの。
-私はどうありたいの。
-私は何色に染まりたいの。
-分からないの…どこを見ても色がないの。
-あぁ、そうか…私は周りの色に染まってしまったんだ。
-ダメ…このままじゃダメだよ私
私が好きな色は「 」なの。
気付いて私!!私が好きな色は「 」で、なりたい自分は「 」なの!!お願い起きて!!
おはよう私、ごめんね待たせちゃったね。
-遅いよ私、やっと帰ってきた
それじゃあ、世界に色を振りまきに行こうか。
色の入ったバケツを振り回しながら今日も私は走っていく。
思い出して貴方の、貴女の好きな色を