NoName

Open App
4/26/2025, 12:23:48 PM

♯どんなに離れていても


 心が繋がっているから大丈夫、そう思っていた。
 その心さえ繋がっていなかったなんて、思いもしなかった。

4/26/2025, 3:30:04 AM

♯「こっちに恋」「愛にきて」


 アパートの下、たくさんの野次馬に囲まれて、あなたは華奢な肩を震わせながらうずくまっている。細い背中からは真っ赤な血溜まりと、白と灰色の繊維状のようなものが透けて見えていた。
 そこに、私と同じ顔の女が沈んでいる。ぱっくりと割れた頭。飛び出した目玉と、砕けて散らばった歯。そして、めり込むように折れた首。一目で死体なのだとわかる。血の中に浮いた白と灰色のマーブル模様は脳みその断片だと嫌でも気づかされる。
 あなたは嗚咽を漏らし続ける。スマホをかざす野次馬たちから隠すように女に覆い被さっている。あの世のものとなった体では無意味だとわかっていても、女を好奇の目に晒させてなるものかと必死で地べたにしがみついている。そのいじらしさが、私の胸をぎゅっとさせる。
 私はあなたの名をそっと呼ぶ。
 あなたの背中の震えがぴたりと止まる。ゆらりと上体を起こし、機械仕掛けの人形のようにぎくしゃくと後ろを振り返る。
 私を見つけて大きく目を見開く。お母さん――と、ガラスのように澄んだ声が私の耳に優しく響く。両親から堕ろせと言われても産んだ、暴力を振るう夫から身をていして守り続けた、たったひとりの娘。病床に伏せる前の、まだ学校に通えていた頃の元気な姿がそこに在る。

『100歳になったら私のところにきてね。必ず会いにきてね。それまでこっちにきちゃ、だめだよ』

 あなたはそう言ってくれたけれど。
 頷いた私を見て、安心したように瞼を閉じたけれど。
 恋しいと、愛しいと、募る思いは止められなくて。

「約束破っちゃってごめんね。お母さん、淋しくて会いにきちゃった」

 泣き腫らしたあなたの瞳から大粒の雫がぽろぽろとこぼれる。あなたと同じ透けた体では涙を拭ってあげることも、抱き締めてあげることもできないけれど。

 この世界に、あなたがいる。
 それだけで、私には充分なの。

4/25/2025, 5:44:40 AM

♯巡り逢い


 お前は来世を信じるか?

 俺は信じてる。
 顔も名前も生まれたところも前世とは違うが、それでも一目見た瞬間に俺はお前だとわかったよ。
 疑うなら証拠を見せてやろうか。
 好きなものはアイスクリーム。ストロベリー味。
 嫌いなものは辛いもの。特にワサビ。寿司は必ずワサビ抜きで頼む。
 得意なことはギターの弾き語り。近所のお姉さんに憧れて、だろ?
 苦手なことはジッとしてること。お前、落ち着きのないヤツだからな。
 そして、生まれつき脇腹に火傷のようなアザがある……。
 どうだ? 合ってるだろ?
 ――そりゃ知ってるさ、前世のお前もそうだった。
 お前が高所恐怖症なのは、高いところからうっかり落ちて死んじまったからさ。海を見て泣きたくなるのは、そこが俺たちにとって思い出深い場所だからさ。
 ……ああ、戸惑う気持ちはよくわかるよ。
 だが俺たちは初対面なんかじゃない。
 ずっと前から、それこそ気が遠くなるほど昔から、俺たちは――、

 …………ストーカー? 
 ……この俺が?

 ははは、何を言ってるんだ。
 そんなわけ、ないだろ……?
 おいおい、逃げるなよ。そう怖い顔するなって。お前に危害を加えようなんてこれっぽっちも思ってねえんだから。
 俺の目的……?
 前世で恋人同士だった俺たちが、こうして再び巡り逢えたんだ。

 ――なら、言わなくたって、わかるだろ?

4/24/2025, 2:58:53 AM

♯どこへ行こう


「どこへ行こう?」君の問いかけに、ぼくはいつも笑って答える。「どこでもいいよ」
 それを「どうでもいいよ」と受け取る君は、ぼくを不満そうに睨みつける。そんな、お馴染みの光景。

 どこでもいいよ。
 君がいるところなら。
 君の隣がぼくの行きたい場所だから。

 そう伝えたいのに、なんだか照れ臭くて。どうしても言えなくて。
 けど、いつまでも「どこでもいいよ」なんて答えていたら、きっと君を悲しませてしまうから。
 今度は「映画館へ行こうよ」って、君を誘おうかな。

4/23/2025, 4:53:22 AM

♯big love!


 にこやかに手を振る彼氏を、エレベーターの扉がのろのろと隠していく。扉がぴったりと閉じ合わさったと同時に、私は溜め込んでいた息を吐き出した。部屋の中に入り、やっと荷が下りたというふうにドアにもたれかかる。そして腕の中の花束を見下ろし、途方に暮れた。
 レストランで食事を終えた後、「君に贈りたいものがあるんだ」と、彼は突然そう言ってスタッフに目配せをした。前もって相談していたのだろう、スタッフは奥から花束を持ってくると、それを恭しく彼に手渡した。
「今日で出会って一ヶ月だろう? その記念日に」
 はにかむように笑って、彼は花束を差し出してきた。他の客やスタッフたちの微笑ましい視線を受けながら、私は引き攣った口元を必死に吊り上げていた。
 ――まだ一カ月。デートだって二回しただけじゃない。どこが記念日なの。
 しかも彼の情熱ぶりを表すような100本の赤い薔薇。ただよう濃厚で甘ったるい香り。学生時代に花屋でバイトをしていたからわかる。意味は『永遠の愛』……。
 嬉しさよりも熱量の差に私はゾッとしたものだ。出会ったばかりの男に無理やり一生を誓わされたような気分。もちろん、ゆくゆくは、という願望はあったけれど、いまはお試し期間のつもりだった。相手もそうだろうと思っていた。薔薇の花束を受け取ったとき、うっかり声を漏らしそうになったけど、すんでのところで呑み込んだ私を褒めてやりたい。
 ――でも、いまなら言えるわ。
 ずっしりと大きい花束を胸に抱きながら、ため息混じりに呟く。
 たかがマッチングアプリ相手に、

「重いなあ……」

Next