テーブルの上のキャンドルはまるいガラスで覆われていた。
ディナーが出てくるのをぼうっと待っている僕は、蝋燭の熱さでうまく回らない頭で、それが酷くつまらないと落胆していた。
いま、いま、この店のたくさんあるテーブル上に一つずつ置いてあるキャンドルの覆いを全部取っ払って、ひっくり返して、そこら中を燃やしてやりたい。そして、その熱さのゆりかごで眠りたい、9歳ぐらいだったかな。こう思ったのは。
さて、これが僕の初恋だよ。面白かった?
想い出と綺麗な言葉で飾れないよな記憶って、まあまあの頻度で襲ってくるよね。
え?どんな思い出かって?そりゃ、小学校のころ水着忘れて絶望したとか、テストの点があまりに悪くって恥ずかしかった記憶とかだよ。君だってあるだろ?
あやつらは夜に襲ってくるからたちがわるい!
睡眠妨害にも程があるよね。
あ、これは受け売りだけど、そゆときは毛布とかの感触に集中するんだ。
ようは、過去じゃなくて、「今、ここ」に意識を持ってくるってこと。
じゃあね!
『また会いましょう』…って、絶対にその『また』、ないでしょう!?
スリルを味わってみたいの
そう言って地上に背中を向けて屋上から落ちた彼女の手を間一髪で掴んだ。
彼女はキョトンした顔だ。僕は、恥ずかしくなって真っ赤。
「飛べるの…言ってなかったっけ」
「言って…ました……」
夜にベランダから訪問してくる変人がいる。
たまにふらっときて飽きたら帰っていくという気まぐれ具合だ。
ベランダから?ふらっと?面識のない人が?夜に?となるだろうが、別に害はないのでそのままにしている。僕はめんどくさがりなんだ。
それで、僕の家はマンション。ついでに六階だ。だから変人は飛んできてるのだと思ってた。
人間離れした容姿だし、何より羽生えてるし。
しかし、違った。ある日月光浴していた時にわかった
変人は登ってきてた。
何をって、壁を。
他の住人のベランダを足場にしながらよじよじ登るならまだ「!?」ぐらいで済んだが、変人は壁を『たったった』だ。「!!!?????」ぐらいになっても無理はないだろう。
「君…羽…使わないの…」
「この羽飛べないんだよね!」
「そっか…」
どうやら、変人は思っていたよりずっと変人だったらしい