想い出と綺麗な言葉で飾れないよな記憶って、まあまあの頻度で襲ってくるよね。
え?どんな思い出かって?そりゃ、小学校のころ水着忘れて絶望したとか、テストの点があまりに悪くって恥ずかしかった記憶とかだよ。君だってあるだろ?
あやつらは夜に襲ってくるからたちがわるい!
睡眠妨害にも程があるよね。
あ、これは受け売りだけど、そゆときは毛布とかの感触に集中するんだ。
ようは、過去じゃなくて、「今、ここ」に意識を持ってくるってこと。
じゃあね!
『また会いましょう』…って、絶対にその『また』、ないでしょう!?
スリルを味わってみたいの
そう言って地上に背中を向けて屋上から落ちた彼女の手を間一髪で掴んだ。
彼女はキョトンした顔だ。僕は、恥ずかしくなって真っ赤。
「飛べるの…言ってなかったっけ」
「言って…ました……」
夜にベランダから訪問してくる変人がいる。
たまにふらっときて飽きたら帰っていくという気まぐれ具合だ。
ベランダから?ふらっと?面識のない人が?夜に?となるだろうが、別に害はないのでそのままにしている。僕はめんどくさがりなんだ。
それで、僕の家はマンション。ついでに六階だ。だから変人は飛んできてるのだと思ってた。
人間離れした容姿だし、何より羽生えてるし。
しかし、違った。ある日月光浴していた時にわかった
変人は登ってきてた。
何をって、壁を。
他の住人のベランダを足場にしながらよじよじ登るならまだ「!?」ぐらいで済んだが、変人は壁を『たったった』だ。「!!!?????」ぐらいになっても無理はないだろう。
「君…羽…使わないの…」
「この羽飛べないんだよね!」
「そっか…」
どうやら、変人は思っていたよりずっと変人だったらしい
今日、明日、過去、不安。
今日した失敗が、後ろから熱烈なハグをくれる。やめて欲しい限りだ。
「ねえ、眠りたいんだよ」
「反省も大事だよ?君もわかるでしょう」
「過去をうじうじ悩んだってしょうがないだろ、僕は、明日に行きたいんだ」
「でもさ、忘れられないだろ」
「わかりきった事いうなよ」
眠りにつく前の押し問答。まさにのれんに腕押し、ぬかに釘打ち…イヤになる!
「離せよ」
「そればかりだね」
「僕の願いはそれだけだからね」
「明日も失敗するよ」
「今日よりはマシになる」
「確証は?ないでしょ」
「あると思う?」
「…ねえ、停滞を選んだ方が楽だよ。僕のハグも、少しの間は冷たくなる」
「止まることはできない。止まったら、歩き出すのが辛くなる。そのことを知ってるから」
「…強いね」
「うん。だから、眠らせて。明日に行かなきゃ。止まってはダメなんだ。歩かなきゃいけないんだ」
「泣きたくっても?」
「泣きたくても」
「止まりたくても、?」
「止まりたくても」
「僕は、歩かなきゃ、いけないから。…おやすみ」