私はやわらかいものが好きだ。
そのなかで特に好きなのは、親友である君の笑顔と、午後5時ぐらいの…冬である今なら午後4時か3時ぐらいのあの光。
美術部は変な時間に終わるから、ちょうど下校するときに私の好きな光になる。
大好きな君は絵の具で汚れた手を洗わないめんどくさがりやだ。
どうせお風呂に入るから、って。かえったらすぐ入るタイプだから、って。なんとなく誇らしげに言う。
私はあそぉ、と返して、楽しそうに歌をうたって微笑んでる君を見てる。あ、ちょっとスキップしないでよ、スキップって歩くのより速いんだから!ちょって待ってってば
歌いながらふりかえって、目だけで「はやく」って言ってくる。なんだか憎らしい!けど愛おしい。
1パーセントしかない憎らしさを100パーセントに見えるようにして、私は君を追いかけた。
空を飛べる友人がいる。
好物はたまごの入ったサンドイッチ。
なぜ飛べるのか、と昼食を食べている時に聞いた。(言うまでもないけど、友人はたまごの入ったサンドイッチを食べていた。いつもそれだ。)
「私が天使だから」
「ふうん…」
なんとなく辟易した。こともなげに言うもんだから。
「飛んでみる?」
「…ええ?」
下校しようと昇降口に来た時に誘われた
「ほら、空中散歩だよ」
「ものはいいようだね」
「口達者ってよく言われる」
友人と私はハグをするような体制で空へ上がっていった。ハグというか、必死に掴まっている風だけど。
「怖い!怖い!!」
「怖くない怖くない」
いやこわいって…
なれたら悪くなかったけどさ
放課後…アウトドアでも、まして外交的でもない僕は、放課後にともだちと遊ぶとか、そういうのはあまりしたことがないのだれけど。
だからといって、放課後が楽しくないわけじゃあないのだ
僕を縛るものから解放されたその自由な時間は、僕にまっしろな羽をくれる。
何をしよう?
本でもいい。勇敢な戦士になって異世界を冒険しよう
映画でもいい。美しい一葉一葉に心を揺さぶられよう
ゲームでもいい。たくさんの人とすれ違おう
思い切って散歩でもいい。坂を下ったら海がある
アイスを食べるのもいい。のら猫はじとっと見つめてくるだろう
何をしよう?
楽しいことはたくさんある。放課後なのだから、時間だってたくさんある。
何をしよう?
まっしろな羽を広げて、僕は放課後を飛んでいった。
なびくカーテン。絵に描かれるのは優雅に美しく揺蕩うように舞うカーテンだけれど、
おあいにく、
私の思い出じゃあ黒板を写すのを邪魔してきたり、
窓に濡れたみたいに張り付いた、そんな優雅とはいえないのがカーテンだ。
だけど、あ…いや、だから、
あの瞬間のぶふぁりと力強く波打った、あのカーテンを強く胸に刻めている。
斜陽は賢くそこに光をさして、風は得意げに吹いた。髪の毛は処世術に少しも逆らわずに視界に入り込む。
黒板は眠っている。窓枠にくり抜かれた明かり。
美しいとはまさにあの光景を指していて、自分は神の気まぐれでそれを見せてもらえたのだと分かった。
美しいを見た瞬間、自分は洗われて、とても純粋なものになれた気がした。
不恰好なカーテン。だけれどあの時は、ものすごく優雅だった。
空は孤独…、だろうか。
私は詳しくないけれど――本当に詳しくない、残念だけど――この地球にあるあの青い空を、他の星で見たことがない。
あったとしても、ずぅっと遠く…声の届かない所なんじゃないかな。
自分と同じでないものばかりあふれた世界は、うん、…きっと孤独だ。
あ、いや、でも私たちがいるのか。
ちっぽけでなんの頼りにもならないけど、それでも空には私たちがいる。植物や、他の生き物だっている。
もしかしたら、雲とは親友かもしれない。
それなら、空は孤独じゃない。
雨は悲しいんじゃなくて、雲の上のパーティーが楽しすぎて思わず降らしてしまうのかも。
雷はおこってるんじゃなくて、太陽とのお喋りが嬉しすぎてパチパチしてしまうのかも。
それなら安心だ…。空は孤独じゃない。空は泣いてない。空は…ずっと元気に笑ってる。