テラ

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5/25/2024, 1:45:10 PM

降り止まない雨

肩を叩かれて振り返る。誰もいない、そういやこの前人類は絶滅したんだっけね、っていう怖い話。本当はそんなことは起こっていなくて、雑踏で立ち止まる私を迷惑そうな目が一瞥して一瞥して一瞥して、でももう忙しいから通り過ぎる。ごめんね。邪魔だな。君が助かりますように祈っているよ。始業時間が迫っているんだ、それではね。そう言って同じ姿が同じ方向に進んでいって、消えてしまう。私の知らないどこかにいるよね。私の知らない幸福を享受しているから、大丈夫なんだよね。そうだといい。私も液体みたいな気持ちで同じ方向に歩いていく。

4/25/2023, 2:25:23 PM

たとえ間違いだったとしても

雨が降る、林檎の花が咲く、夜が来る、そういう綺麗で当たり前のことと一緒なのに、お前なんか産むんじゃなかったと呟いた母さんは手首を切って死んでしまった。彼女を見守っていると、血まみれになって立ち上がって、おっと私は思う、項垂れたまま支度を整え仕事に行く、丸まった背中が哀れすぎて泣きそう、力強く押してあげられたらよかった、ごめんね無力で、無力ということにして守ってもらってごめんね、誰もあなたを責めないよ、大丈夫だよ、正しいことなんてそう沢山ある訳じゃないんだし。

11/10/2022, 3:03:26 PM

実際問題、ぼくらは分かり合えないし、微分した感情の一片でさえ言葉にできない、落っこちたかけらをつまんで途方に暮れ、一旦忘れることにする、ぼくが知的生命体って最初に言ったの誰ですか? すべてを言い表せるはずだったのに、過不足ない表現で、完璧な言葉できみに名前をつけたかった、だから本を読んだ、言葉を喋れるのは意外と役立たずってことを知った、追いつけなかったのはそのせいだった。

意味がないこと

10/18/2022, 3:45:22 PM

あの日、と話し出し、それがぼくにとってはたったひとつしかないことを、運の良いやつだと吐き捨てた老人、まだ元気でいるだろうか。ぼくは彼が理解できなかった、痕にならない生傷のまま、真っ赤な血を垂れ流すのが恵まれているの? 表現の自由が保障されたので死にたいと言ってみる、するとそんなこと言ってはいけないと叱られる、きみに。ごめんね、好きだよ。言い忘れてた、ぼくはあの日、隕石に殺されたんだ。

忘れたくても忘れられない

10/16/2022, 4:18:43 PM

愛ってのはもっと美しくて、もっと巨大で、きみを救えて、世界中の人が讃えるように、限りないもののはずだ。深い音色が聞こえるはずだ、神を見つけられるはずだ、愛を知ったのであれば。海を歩き、空で踊り、星を落下死させられる、愛に満たされたのであれば。不幸の理由として、愛がないからっていうのはそれっぽい、だからそういうことにしてほしい、ぐっすり眠りたいだけなの、誰かが死んだり恋したり、うんざりしました、休みの日くらい静かにして、
ひとを愛さなければいけませんね。きみもわたしも。

やわらかな光

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