過去のわたしが問いかける、わたしは答えないでいる、忍耐強さは美徳です、こんなに立派になりました、ありがとう、おとうさん、おかあさん、約束破ってごめんなさい、斜向かいのおうちの子はまともなんだからわたしは許して、子どもの頃の思い出は飼っていた犬を庭先に埋めたことだけ、ごめんね、おまえを中途半端な生き物にしてしまって、ごめんね、気づいてあげられなくて、ごめんね、いつも正しいわけじゃなくて、耳元で話しかける声がうるさい、黙らせるのは億劫だから、耳を塞ぐことにした。

鋭い眼差し

アハハ、どうでもいいわ、詐欺は大好き、嘘ついたことない人なんか綺麗じゃないもの、あなたの瞳が煌めいて、髪が艶やかになった理由を知ってるわ、ねえ散歩に行きましょうよ、食べすぎちゃったわ、真夜中の音楽はご陽気で結構ね、血飛沫を絵の具にするわ、どこまでも行けそうね、あなたと一緒だからかしらね、地獄の果ても素敵よ、旅行みたいなものよ。

踊りませんか？

奇遇だね。今日の仕事はもう終わり？　飲みに行こうよ、景気のいい話を聞かせてよ。当然、夢を酒で割るのは替えの効かない酩酊さ、誰しもが酔いたがる、非情になりきれないから、素面で罪を犯せるか？　そりゃ君は犯せるだろうよ、君はね、昔から完璧だったよ、どこにもなにも間違いがない、出会ったのが運の尽きとは君のことだよ、愛の告白さ、当然ね。

たそがれ

窓際のサボテンは心配性で、あたしが転がっていると子守唄を歌ってくれる。だから寂しかったことはない。ママには聞こえないでしょ、あたしの耳はいいの、そこらの誰より。目を閉じる動作と眠りに落ちるまでの間に死が気配を殺してやってくる。あたしその足音だって聞こえるの。でもあたしにはサボテンの子守唄も香水の寝言も星の軽口も全部聞こえる、だから寂しかったことはない。

静寂に包まれた部屋

ひとつの、世界が終わるということ。ヨーソロー、短剣は忍ばせたか？　異国は怖いぜ、自分の身は自分で守らなくちゃな。餞別を期待するなんてらしくない、きみに言うべきことなんかはない、勝手に野垂れ死ぬんなら、おれはその知らせをかもめから受け取るよ。それでやっときみの歯を返す、海に、お守りは軽くて小さいほどいいんだ、多いほど命が軽くなる。そら、汽笛だ、どこへでも行ってしまえよ。

別れ際に