《ラララ》
「ラララー、ラララー、ラーラーラララーララー」
ある春の日の放課後。僕、紅野龍希が部活に行こうと格技室に向かって背後からこんな歌声が聞こえた。
「桜……、いや、チューリップ……?」
「チューリップだよー」
曲名を推測していると、歌っていた本人が僕の隣に来て曲名を教えてくれた。
「やっぱりチューリップですか……。ってあれ? 夏実さんじゃないですか!」
「今気づいたの?」
「さすがに歌声だけじゃ判別できませんって。ちなみになんでチューリップなんです?」
「だーってそこにチューリップがあったんだもーん」
夏実さんは花壇に咲いているチューリップを指さして言う。
「あ、本当だ。もう春ですねー」
「実際もう3月だしねー。この前雪降ってたけど」
「ですよねー。この辺は春が遅いから」
「そうなんだよねー。いつだったかな、この時期に大雪警報が出たことがあって」
「ああ、ありましたねぇ。ここ5年くらいの話ですよね」
「そうそう。さすがにあの時はびっくりしたよー。並木の桜が咲くのもいつもに増して遅かったし」
「あそこは川沿いですし余計に遅くなりますよね……」
「うんうん。そういえば逆にすごい暑くて3月下旬くらいに並木の桜が咲き始めたこともなかった?」
「ああ、ありましたねぇ。本当、異常気象ばっかりですねぇ」
「だよねー。並木の桜が咲くのは大体4月上旬くらいからのことなんだけど」
「ですよねぇ」
こんな雑談をしながらのんびり歩いていると。
「あ、いたいた。おい、夏実に紅野、何のんびり歩いてる。今日は他校と練習試合だから可能な限り早く来いって言ってあったよな?」
ものすごい剣幕で蒼戒くんがやってきた。
「あ、蒼戒くん……」「あ、そうだった……」
「わかったならさっさと来い。5分後に始めるぞ」
「了解です」「はーい……って5分後?! 急がなきゃ!!」
というわけで僕と夏実さんは慌てて格技室に向かって走り出した。
(おわり)
2025.3.7《ラララ》
2.25《さぁ、冒険だ》書きました!読んでくれたら嬉しいです!
《question》
※ちょくちょく英語が出てきますが下の文に日本語訳を挟んでいるので読み飛ばしていただいて全然大丈夫です!
※この話は《cute》の続きになっています!《cute》から読んでいただいた方が楽しめるかな……?
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とある春の日の放課後。私、熊山明里が今日は一人で歩いていると、「Hey girl,it's been a long time」と外国人の男性に声をかけられた。ちなみに日本語に訳すと、「ねぇお嬢さん、久しぶり」的な意味だ。
「……あ、あなたこの前の……!」
ボブ(仮名)。この間桜並木への道を聞かれた金髪の外国人だ。確か道を聞いたあと、私に「彼女になって!」と突然言い放ち、一緒にいた蒼戒に「彼女は俺のものだ。手を出すな」とブチギレられていたっけ。ちなみに仮名なのは単に金髪の外国人と呼ぶと色々面倒だからである。
「Aren't you with your previous boyfriend today?」
「あ、あいつ別に彼氏じゃないんだけど……っていけないいけない。That boy is not a boyfriend」
ボブに英語で「今日はこの前の彼氏と一緒じゃないの?」と聞かれたが私は日本語で答えかけてしまい、慌てて英語で言う。
「Is that so? He said you are mine」
「Oh, that's on his own...…」
直訳すると、「そうなの? あいつ君は俺のものだって言ってたのに」とボブに言われたので、私は「あれはあいつが勝手に言った」的なことを答える。
「By the way, were you able to see the cherry blossoms?」
私は「それより、この前桜は見れたの?」と話題を変える。
「Of course. It was so beautiful!」
どうやら桜は見れたようだ。すごく綺麗だったと言っている。
「That's good. So where do you want to go today?」
「I have a question for you today.」
「To me?」
「Yes」
私が今日はどこに行きたいのか尋ねると、ボブは私に質問があると言う。
「What?」
「You didn't reply at that time because you were overto that boy before. After all, be my girlfriend」
直訳すると、「以前君はあの少年に先を越されてしまったからあの時の返事をしていないよね。やっぱり僕の彼女になってよ」とのこと。蒼戒に凄まれたくせに、まだ私を諦めてないのか……こいつ。
「Unfortunately, the answer is NO. I love him」
私は「残念ながら答えはNOよ。私あいつが好きなの」ときっぱりきっぱり答える。だからあの時蒼戒が「こいつは俺のものだ」って言ったのが嬉しかったし、反発もしなかった。いつか本当にそうなる日を夢見て。
「Oh no. Then, if you don't have him, will you be my girlfriend?」
あちゃー、「あいつがいなければ僕の彼女になってくれる?」ですって?
「Unfortunately, the answer is NO. Persistent men will be hated」
残念ながら、答えはNO。しつこい男は嫌われるわよ、と私は答える。
「It's a pity. Then will you die before it belongs to someone else?」
うわぁ、こいつ想像以上にヤバいやつだった……。「残念だなぁ。誰かのものになる前に死んでくれる?」だなんて。まあこんなひょろっとしたチンピラに、この私がやられるとは思わないけれど。
「Can you defeat me?」
「Of course」
私が「あなたに私が倒せるかしら?」と問うと、「もちろん」との答えが。
「Oh, is it okay to say that? I'm pretty strong」
「あら、そんなこと言っちゃって大丈夫? 私結構強いんだけど」と言って拳を構えたその時。
「そこまでだ。明里、お前こんなところで妙なトラブルを起こそうとするな」
と低く冷たい声が割って入った。
「あ、蒼戒?! あんたどうしてここに?!」
「それからお前。I told you not to touch this guy before, right?」
この前こいつに手を出すな、って言ったよな? とのこと。おー、怖い怖い。
「Eh, well...…」
「If you get involved with this guy next time, I won't forgive you anymore. Is it good?」
次こいつに関わったら容赦しない、とのこと。
「あ、あんたさすがにそれは言い過ぎじゃ……」
「お前は黙ってろ。ったく人が黙って見てれば色々と言ってくれるじゃないか」
それはボブに言っているのか、私に言っているのか。
「Wow, I got it... Well then, miss, I wish you happiness」
ボブは観念したようで、私にお幸せにと言って去っていく。
「ったくなーにがお幸せに、だ。次会ったら本気で切り捨ててやる……」
蒼戒は相当ご立腹のよう。切り捨てるって蒼戒が言うと冗談に聞こえないんだよな……。もちろん本人は本気だろうし。
「ま、まあ落ち着いて蒼戒。助かったわ。ありがとう」
「別に俺はあの男がどうなろうがどうでもよかったんだがあいつ多分刃物かなんか持ってるぞ」
「あ、やっぱり?」
薄々勘付いてはいたんだけど、我ながら危ない橋を渡ったものだ。
「気づいてたならさっさと逃げろ。お前に……危ない橋は渡ってほしくない」
あら、珍しく言うじゃない。
「ふふっ、渡ってもあんたが助けてくれるんでしょ?」
「だからと言ってわざわざ自分から渡ろうとするな。助けると言っても限度がある……って何を言うんだ明里!」
話の流れで色々言ってもらおうと思っていたが、蒼戒は途中で気付いたようで、真っ赤になってしまう。正直に言う、かわいい。
「あははっ、バレたー? それじゃあ帰りましょうか」
「わかったわかった。行くか」
私は笑って歩き出し、蒼戒もそれに続く。結局いつもと変わらない放課後の出来事だった。
(終わり)
2025.3.5(3.29)《question》
《ひらり》
ひらり。
春先のある日の学校帰り。春先の暖かい風が、私、熊山明里のブレザーの制服のスカートを靡かせた。
「もう春だねぇ」
「なーにがもう春だねぇ、だ。まだ3月上旬。明日にはまた雪が降ると聞いたぞ」
そうひんやりとした声で返すのは背が高く整った顔立ちの美少年。私の幼馴染でクラスメイトの齋藤蒼戒だ。
「え、マジで? 今日こんなに暖かいのに?」
「本当かどうかは天気予報士に聞いてくれ。少なくとも今朝のニュースでは明日は雪が降ると言っていた」
「ええー、そんなあ〜。明日はこの際だから布団の天日干しでもしようと思ってたのに〜」
「濡れるぞ、間違いなく」
「だよねぇ」
参ったなぁ、と私は肩を落とす。
「そういえばそろそろひな祭りだな。お前はお雛様飾ったりするのか?」
蒼戒がさりげなく話題を変えた。
「しないしない。めんどくさいもん。それにこの辺じゃひな祭りは4月3日よ」
「ああそうか。この辺はこういう行事には旧暦の日付を使うからな……」
「ええ」
ひな祭りしかり、七夕祭りしかり。
「何はともあれ、早くあったかくなってほしいよねぇ」
寒いと外に出る気が起こらないし布団を干したりできないし暖房代嵩むし。
「そうだな」
そんなこんなで私たちは春の気配を感じつつ、家路についた。
(おわり)
2025.3.3《ひらり》
《cute!》
※ちょくちょく英語が出てきますが下の文に日本語訳を挟んでいるので読み飛ばしていただいて全然大丈夫です!
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ある春の日の放課後のこと。私、熊山明里がいつものごとくたまたま見つけた蒼戒と雑談しながら歩いていると、観光客と思しき外国人(金髪のチャラそうな高身長の男。面倒なので仮にボブと呼ぶことにする)に声をかけられた。
「Excuse me. I'd like to ask for the way」
日本語に直訳すると、道をお尋ねしたいのですが、的な意味だ。チャラそうな見た目に反して真面目だな。
「OK. Where do you want to go?」
私は両親がニューヨークに住んでいることもあり(今はパリに移住したんだっけ?)、それなりに英語ができるので、そう返す。直訳すると、「オッケー。どこへ行きたいの?」だ。
「I want to go to the cherry blossom trees」
「あー、桜並木かー。ちょうど満開だったもんねー。うーんと……、Go straight, turn left at the traffic light at the end, and turn right at the second corner. OK?」
ざっくり言うと、まっすぐ行って突き当たりの信号を左に曲がり、二つ目の角を右に曲がるのだが、結構わかりにくいんだよね。
「ちょっと待て明里、それだと線路にぶち当たるぞ」
私とボブの会話を黙って聞いていた蒼戒が口を挟む。蒼戒もかなり英語できるからね。
「あっ、そっか」
「だから……、Then go along the tracks and go through the underground passage. From there, if you go straight further, you will see the cherry blossom trees. OK?」
蒼戒が私の説明に補足する形で言う。直訳すると、「そして線路沿いに進み、地下道を通る。そこからさらに直進すると桜並木に出る。わかったか?」となる。
「Oh, I understand. Thank you, boy」
日本語に直すと、「わかった、ありがとう少年」的なことをボブが笑顔で言う。というかよくこの長い説明を一度で覚えきれたな……。
「You're welcome. Have a good trip」
蒼戒が「どういたしまして。良い旅を」と話を締めくくるが。
「Thank you, too. And you're cute. Be my girlfriend」
ボブは私にそう言ってきた。ご丁寧に私の腕を掴んで。日本語に直すと、「君もありがとう。あと君かわいいね。僕の彼女になってよ」だ。
私は空手部の(裏)主将だし、振り切ろうと思えばできるがどうしようか。
「はああ?!」
急に言われて戸惑う私の代わりに、蒼戒がボブを睨みつけて早口で言った。
「She is my girlfriend. Keep your hands away from my girl!」
「ちょっ! 蒼戒! あんたはあんたで何言ってんの!!」
日本語に直すと、「こいつは俺の女だ。手ェ出すな!」的な意味になる。そういえばこんなシチュエーション、前にもあったな……。
「こういう奴にはこのくらいでちょうどいいだろう。Come on, quickly let go of your hand」
ボブに「早く手を離せ」と言ってるのはわかるけど、やり方ってもんがあるでしょうよ。
「And, but...」
言い淀むボブに、蒼戒が「あぁ?」と凄む。普段は絶対こんなことしない上に無駄に顔がいいし外国人のボブにも負けない高身長だから迫力あるわね……。
「Okay, okay, I'm sorry」
蒼戒に迫られ、ボブは慌てて私から手を離す。
「よし、行くぞ明里」
そして蒼戒は私の手を引いてズンズン歩き出す。
「え、あ、ちょっと待ってよー!」
私が慌てて蒼戒と共に歩き出すと、ボブが何か言った。
「Wait, boy, you should cherish that girlfriend」
日本語に直すと、「待って少年、その彼女、大切にした方がいいよ」とのこと。
「Of course. ほら、行くぞ明里」
蒼戒はもちろんだ、と答えてものすごいスピードで歩き出したので、私はボブに「良い旅を!」と言い置いて蒼戒を追いかけた。
(終わり)
2025.2.27《cute!》
《さぁ冒険だ》
ピーピーピー……、ガサガサガサガサッ……。
木漏れ日が眩しい。どこからか鳥とか獣の声がする。
「ここ、どこ……?」
俺、齋藤春輝は木漏れ日の強烈な光で目を覚ます。
ここは……、
「ジャングル?!!」
ハッと意識が覚醒する。右には超巨大な葉っぱ、左にはめっちゃ太い木。どっからどう見てもジャングルだ。
「ああ、起きたか。多分熱帯雨林のジャングルだ。しかもジュラ紀の」
後ろからそんな声がして、振り返ると、そこにいたのは俺の双子の弟、蒼戒。
「ジュラ紀だあ?!」
「多分な。さっき始祖鳥みたいなのがいたし……」
「お前よくそんなのが通って冷静でいられるな」
「別に恐竜に興味ないし……」
「おっ前夢ねーなー。恐竜つったら男の夢だろ」
「そんなことないだろう。少なくとも俺はどうでもいい。そんなことより早くここを抜け出したい」
「えー、せっかくだから探検とかしよーぜー」
「断る。俺は暑いのは苦手なんだ」
「あ、そっか。それじゃあ……」
俺は自分が被っていた帽子を乱暴に蒼戒に被せる。
「わっ、何すんだお前!」
「これ、被っとけよ! さぁ、冒険だ!!」
★★★★★★★
「……んー……、ほら蒼戒……早く行こーぜー……」
「ったくお前は夢の中で何やってるんだ?」
とある真夏の夕方。俺、齋藤蒼戒が部活から帰ってくると、珍しく双子の兄の春輝がリビングの机に突っ伏してうたた寝していた。
寝言を聞くに、多分夢に俺も出てるんだろうけど、何をしているんだか。
「まあ楽しそうだしほっとくかな」
というわけで俺はいつも春輝がしてくれるように、肩にそっとタオルケットをかけてから夕飯の準備を始めた。
(おわり)
2025.2.25(3.8)《さぁ冒険だ》