谷間のクマ

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《ひらり》

 ひらり。
 春先のある日の学校帰り。春先の暖かい風が、私、熊山明里のブレザーの制服のスカートを靡かせた。
「もう春だねぇ」
「なーにがもう春だねぇ、だ。まだ3月上旬。明日にはまた雪が降ると聞いたぞ」
 そうひんやりとした声で返すのは背が高く整った顔立ちの美少年。私の幼馴染でクラスメイトの齋藤蒼戒だ。
「え、マジで? 今日こんなに暖かいのに?」
「本当かどうかは天気予報士に聞いてくれ。少なくとも今朝のニュースでは明日は雪が降ると言っていた」
「ええー、そんなあ〜。明日はこの際だから布団の天日干しでもしようと思ってたのに〜」
「濡れるぞ、間違いなく」
「だよねぇ」
 参ったなぁ、と私は肩を落とす。
「そういえばそろそろひな祭りだな。お前はお雛様飾ったりするのか?」
 蒼戒がさりげなく話題を変えた。
「しないしない。めんどくさいもん。それにこの辺じゃひな祭りは4月3日よ」
「ああそうか。この辺はこういう行事には旧暦の日付を使うからな……」
「ええ」
 ひな祭りしかり、七夕祭りしかり。
「何はともあれ、早くあったかくなってほしいよねぇ」
 寒いと外に出る気が起こらないし布団を干したりできないし暖房代嵩むし。
「そうだな」
 そんなこんなで私たちは春の気配を感じつつ、家路についた。
(おわり)

2025.3.3《ひらり》

3/3/2025, 1:09:50 PM