知らないことばかり
初めてのことばかり
楽しいことばかり
どんどん歩く 追いかけると飛び立つ鳥
道端に落ちている 触るとジジジ暴れるセミ
踏めばカサカサ 風に舞い上がる枯葉
ある朝突然 真っ白な世界 冷たい冷たい肉球
今はもう 何でも知ってる
自転車の音 バイクの音 トラックもへいき
カミナリと花火はちょっと嫌だけど
いつも家族といっしょ 何も心配ない
最近仲間入りしたおチビさん
まだ何も知らないみたい
尻尾ふりふりついてくる
噛んじゃだめだよ 吠えちゃだめ
こっちにおいで いっしょに遊ぼう
楽しいことだらけだよ
「子供の頃は」
#449
防波堤に並んで座る
日傘に入れば 波音が響いて
海を見つめる ふたりきり
「相合傘」
#448
子どものころ 底なし沼に落ちた
実際には底なしではなくても
水と土の微妙な量のバランスで
泳ぐことのできない
もがくほど沈む恐ろしい泥沼になる
きれいな湧き水で知られる土地で
蝶を追っていた夏の日
池のほとりは水草が茂っていて
どこまで地面かわからないまま
踏み込んだ足がすっ、と吸い込まれた
ポチャンと水に落ちるのではない
泥の中にゆっくり沈んでいったのだ
頭は真っ白で声も出ない
蝉の声も消えた静寂の中で
身じろぎもできぬまま膝、腰、胸と
もう目を閉じるしかないような瞬間
対岸から駆けつけた父が引き上げてくれた
全身小さな浮草と泥まみれ
蝉の声が戻ってきても放心していたっけ
慣れぬ土地の池や沼、
どうか皆さまお気をつけて
「落下」
#447
好きな本を、好きなだけ選びなさい
街に出て 家族で食事をした帰り道
かならず大きな書店に立ち寄ると
父は皆にそう言って
30分ほどそれぞれに書棚の間を巡る
思い思いの本たちを手に集合、お会計
二重にした大きな紙袋を両手に下げて歩く父
早く新しい本の表紙をめくりたくて
わくわく高揚した気分で辿る家路
帰宅後は互いに見せあったり
早速読み耽ったり
嬉しい楽しい恒例行事
幸せな時間だったな
あの輝く時間の思い出と
本に囲まれた暮らし
父からの何よりの贈りもの
あらためて、ありがとうお父さん
「好きな本」
#446
わんこ連れにはニクい空
レーダー刻々にらめっこ
降るの?降らんの!?
どのタイミング?
今しかない!と飛び出して
それでも始まるポツポツリ
増えてく地面の水玉もよう
途中からはあきらめて
行こう行こう濡れていこう
ブルブルしぶきをまき散らせ
「あいまいな空」
#445