美しさも価値も
自分自身では知り得ない
愛情と思いやりのある
誰かという鏡なしには
愛情をもって
大切な人たちの鏡となれるだろうか
その人の気づかぬ
美しさを照らせるように
「鏡」
#198
とらわれて こだわって
手放すことができない
これは大切なもの
これは思い出
これは成果
ここは居場所
あなたは心のよりどころ
掌のなかの愛しさは
失う不安と背中合わせ
いつまでも捨てられないものが
いつまでもわたしを苦しめる
握りしめた拳を開こうとしてはためらい
手放す日を恐れながら
自由を願う
「いつまでも捨てられないもの」
#197
「かちほこしてる!」
ピヨピヨ音に誘われて
欲しくてたまらないピンクの豚のおもちゃ
しっぽ振りふり駆け回る
右かと思えば左 上、下
捕まえた!と思いきや遠くへポーン
ダッシュ ダッシュ 相手の目線を読む
疲れ知らずで走ってはジャンプ
そしてとうとうガブリと喰らいつく
やった!!!
胸をそらし 顎を上げ
前脚を高く上げながら誇らしげに歩く
勝ち誇ったその様子が「かちほこ」
嬉しいんだね、がんばったね、
とっても楽しかったよ
「誇らしさ」
#196
冷えたワインをグラスに注いでベランダに出る
もう昼の熱もない 極上の風が肌を撫でる
柵から見下ろせば小さく見える人の姿もまばら
遠くからクラクションの音が響く
街灯は道を柔らかく照らし
正面には大きな舞台のように広がる闇
遠く微かに揺れるのは漁船の灯だろうか
空と海の境はあいまいだけれど
月明かりが細い筋となって海を知らせる
耳を澄ます 寄せる波の音
浜辺の砂に沁みていく波
濃い潮のにおい
昼の喧騒から離れ 安らいでいるような海
わたしの心もとろりと和らいで
どっちつかずの思いが波に溶かされていく
「夜の海」
#195
補助輪なしで土手を走る
お兄ちゃんの大きな自転車をこぐ
出会う人が
「すごいねぇ!」
「上手に乗ってるね!」と驚き顔
嬉しかったけど
気がついちゃった
小さいから褒められてるんだって
小さいのにえらいねって
ちょっとくやしい
「自転車に乗って」
#194