それは孤高のGiver
いつか必ず燃え尽きる運命のもと
周りに熱を 光を エネルギーを注ぎ
限りない恩恵を与え続ける
強い力で全てを引きつけながら
その身に近づきすぎれば焼き焦がす
何も求めず ただただ与える存在
今日も太陽は燃やし続ける
自分を、そして終わりまでの時間を
「太陽」
#187
4時間目終了の鐘の音とともに
クラスの5分の1ほどが席を立って駆け出す
急げ急げ
ただでさえ4階の教室は不利
どの教室からも険しい表情で飛び出してくる
向かうのは一階中央廊下の交流スペース
出張パン屋さんが店を出しているのだ
余裕の笑顔でゆっくり行くのは予約組
2時間目の中休みに予約票を投函済みの奴ら
授業が長引いたら予約もできない
教室の位置にしろ、もっと公平にできぬものか
友から託されたリクエストメモを握り締め
負けるわけに行かない戦場へ走る
すでに遠くから騒がしい声が聞こえている
間に合うか…ッ 間に合ってくれ!
飢えた人だかりから次々のびる手・手・手
お店の人は慣れた様子で次々捌く
飛び交うパンと小銭
選ぶ余裕はない、とにかく数は揃えねば
亡者の群れの隙間から手を伸ばして掴む
ヨシ!数量確保だ、
「ください!!!」
友の、私の空っぽストマックを満たしてくれる
愛しいものたちよ
戦利品を確認しながら教室へ急ぎ戻る
おおおお
コロッケパン、焼きそばパン、ハンバーグパン
ハムサンドにメロンパンだ
1人菓子パンだが仕方ない少しずつ分けるか
予約なしでハンバーグパンまで得られるとは
上々の収穫に胸を張って帰還する
「みんな、お待たせ!!」
より良い予約方式について議論しながら
パクつく我ら
あんまりスマートな仕組みになるのも
かえって味気なくなったりしてね
あー惣菜パン美味しすぎる
「鐘の音」
#186
あつい、、
あつすぎる毎日
駅のホームで電車を待つのは
ホットサンドメーカーで焼かれるようだ
屋根が熱をうまく集めているのだろう
熱風が吹きつけたとき考えた
これは…
今は日本は真冬、休みをとって
南国に来ているのだ
輝く太陽、青い空 白い雲、熱い風!
底冷えに震えて厚着をしていたのに
今やワンピース一枚で風に吹かれている
太陽のエネルギーを体内に貯め込んで
帰国後の寒さに備えよう
さあこい、サマー・ヒートウェイヴ!!
(短時間なら思いのほか有効)
「つまらないことでも」
#185
あなたが眠っている間に
小さな手の 柔らかな薄い爪を切り
額に張り付く髪もそっと切り
おもちゃを片付け
アイロンをかけ
夕飯の下ごしらえをし
ポットに湯を沸かして
香りの良いお茶を淹れる
カップに注いでクッキーなど準備する
すると大抵ちょうどのタイミングで
あなたが目を覚まして泣き出すのです
オムツかな?ミルクかな?
お茶は冷め切ったころに一気飲み
ほんとにたいへんだったけど
…懐かしい日々
「目が覚めるまでに」
#184
父の個室に足を踏み入れると
見慣れない大きなブロンズ像
壁には風景画
病室にこんなものなかったはず
一緒に訪れた母も驚いていたが
父が病床から百貨店の外商に連絡して
買い入れたものらしい
子どもだった私にその是非はわからなかったが
周囲がにじませる呆れた雰囲気は感じた
その後本人も美術品も病院から無事搬出され
武勇伝か笑い話のように扱われていたけれど
あれから程なくして世を去った父は
大勢で賑やかにするのが好きで
人一倍子煩悩で家庭を大切にしていた
いつも前向きで
悲観や無気力を嫌った
真っ白で殺風景な病室でひとり
運命を呪ったり自分を憐れんだりするよりも
美しいものを目にすることのできる喜びと
いま命がある幸運に感謝していたかったのか
ずっと理解できないまま
記憶の底に沈んでいたけれど
いつか入院したり施設に入ったりする時には
この絵とこの絵を部屋に飾れたらいいな、
などと考えていると
心の奥の扉が不意に開いて
あの時の父の思いが静かに胸を浸した
「病室」
#183