あなたが眠っている間に
小さな手の 柔らかな薄い爪を切り
額に張り付く髪もそっと切り
おもちゃを片付け
アイロンをかけ
夕飯の下ごしらえをし
ポットに湯を沸かして
香りの良いお茶を淹れる
カップに注いでクッキーなど準備する
すると大抵ちょうどのタイミングで
あなたが目を覚まして泣き出すのです
オムツかな?ミルクかな?
お茶は冷め切ったころに一気飲み
ほんとにたいへんだったけど
…懐かしい日々
「目が覚めるまでに」
#184
父の個室に足を踏み入れると
見慣れない大きなブロンズ像
壁には風景画
病室にこんなものなかったはず
一緒に訪れた母も驚いていたが
父が病床から百貨店の外商に連絡して
買い入れたものらしい
子どもだった私にその是非はわからなかったが
周囲がにじませる呆れた雰囲気は感じた
その後本人も美術品も病院から無事搬出され
武勇伝か笑い話のように扱われていたけれど
あれから程なくして世を去った父は
大勢で賑やかにするのが好きで
人一倍子煩悩で家庭を大切にしていた
いつも前向きで
悲観や無気力を嫌った
真っ白で殺風景な病室でひとり
運命を呪ったり自分を憐れんだりするよりも
美しいものを目にすることのできる喜びと
いま命がある幸運に感謝していたかったのか
ずっと理解できないまま
記憶の底に沈んでいたけれど
いつか入院したり施設に入ったりする時には
この絵とこの絵を部屋に飾れたらいいな、
などと考えていると
心の奥の扉が不意に開いて
あの時の父の思いが静かに胸を浸した
「病室」
#183
「もしも…」と言うとき
確率はちょっと低めと感じてる
絶対確実じゃないけれど
ツイてるのならやってみたい
くじ引きみたいに運試し
願いをかけて進みたい
「もしも」と思ったその瞬間
心はそれを求めてる
進みたい やってみたい
雨が降ってもいいじゃない
雨天決行、やっちゃおう
「明日、もし晴れたら」
#182
泥水はそのまま放っておけば澄んでくる
濁って汚れ渦巻く心もおなじ
心が荒れている時は
一人になりたい
「だから、一人でいたい」
#181
澄んだ瞳には
全てを見透かされそうな気がする
瞳はなにも語らず
ただ見つめ返すだけなのに
水面を覗き込むように
自分がそのまま映し出されるからか
人からどう見られるか
人に見透かされるのがこわいのではない
ありのままの自分を直視することに
自分自身の姿にヒヤリとざわつくんだ
#180
「澄んだ瞳」