暗く冷たいじめじめした隙間で
動けずじっとしている
何も見えない 誰も訪れない
そんな毎日
ただ この隙間に日に数分間だけ
太陽の光が差し込む
それは突然現れる
圧倒的な光の奔流と熱量
まるで生まれ変われそうな
エネルギーが注ぎ込まれる
ひとときの
この恩寵なしに生きていけるものか
「日差し」
#153
産院の新生児室
並んでいる赤ちゃんたちが窓越しに見える
お産ラッシュだったのか、15人くらいの小さな赤ちゃんたちがスヤリ眠ったり、顔を赤くして泣いたりしている
私のベビーは名札を見なくても
大勢の似通った顔の中でもすぐにわかる
ひときわ大きなよく通る声で、元気いっぱいに泣いているから
「すぐにわかっていいわね、本当にいい声!将来は声楽家かしら?」なんて言われながら
声楽家はともかく、
これだけ元気にしっかり主張する我が子は
なんとも誇らしく頼もしい
幼児期になっても
泣くと町中に響き渡るような美声を披露して
しもべは抱っこやおんぶをして差し上げたり
時にはご所望に応じてオヤツなども
すっかり大きくなり
今はもう大声で泣くようなこともないけれど
嫌なことはイヤ、やりたいのはコレ!
と強く主張することを どうかやめないで
小さな声でひっそり泣いたりなどしないで
しっかり抗議し 欲しいものは手に入れる!
そんなふうにたくましく生きていってほしい
元しもべは心から願っております
「窓越しに見えるのは」
#152
真っ白な糸を 茜の根で染めて
赤い糸を作ろう
緋色と朱色に染め分けて
美しい赤い花が溢れ咲く
絨毯を織る
あのひとと暮らす部屋を
あたたかく彩るやわらかな絨毯
一本一本 一段一段
心を込めて 織り上げていく
どれほどの時がかかるだろう
毎日ずっと休まず手を動かして
子にも孫にも使い継がれるよう
しっかりと丈夫に丹念に仕上げる
赤い糸は 赤い花はわたしの祈り
大切な人たちの日々を
あたたかく守り続けるように
「赤い糸」
#151
「台風一過」と聞いて「台風一家」を思う人は多いが、「入道雲」はどうだろう。
「にゅうどうぐも」と呼ばれる大きな雲は、入道がお坊さんと同義なことも、大入道という妖怪のことも知らなかったた子どものわたしにとっては、絵の具がチューブから「にゅう」っと出る感じと、その後「どぅ」っと夕立になるのとセットで脳内にイメージされていた。
「積乱雲」なんて言われるとなんだかカッコ良すぎて「にゅう」っ「どぅ」っという湿気を含んだ夏の躍動感がリアルじゃない気がする。
同時期の記憶に「怖いワンマンバス」というのがあった。今はもう乗車員が運転手さん1人なのが当たり前になって(昔は車掌さんも同乗していた)その表示を見ることも少ないが、当時「ワンマン社長」という言葉を「思うがままに振る舞う独裁者」といったイメージで学習していたわたし。
「ワンマンバス」と書かれたバスは強面の運転手さん(ごめんなさい)による独裁下におかれた恐ろしい乗り物に思われ、なんでそんな怖いことを堂々と表示するんだ、誰も乗りたがらないよ?と子ども心にバス会社のマーケティング戦略に疑問を抱いていた。
昔も今も、子どもが耳から聴き覚えた勘違い言葉は日々生まれていて、「台風一家」や「お食事券」「重いコンダーラ」「謝って発砲」は定番だが、ひょっとしてどなたか収集整理なさってるかもしれない…集大成があったら笑ったり感心したりで堪能したいなぁ。
「入道雲」
#150
傾いた地軸で太陽をめぐる地球は
囲炉裏を囲む 串打ちされた魚
相手は何といっても太陽だから
極めつけの強火中の強火
強火の遠火、気長にいくのがいいのに
夏はどうも近火にすぎる
アチチ アチチ
焦げつかないよう自転して
パリッとこんがり焼ける頃には
公転していて もう次の季節
今年も熱いに決まってる
めげずにクルクル
こんがりジリジリ焼かれよう
「夏」
#149