ここではないどこかの崖の上で
わたしは長い髪を風に揺らせている
ここではないどこかの草原で
わたしは馬を疾駆させている
ここではないどこかのわたしは
森の奥深くの小さな赤いきのこであったり
海の底の目の退化した魚であったり
宇宙の遠くのヒト型ではない生命体だったり
そんなことを考えていると
だんだん意識が拡散していって
ここのわたしも粒子になって広がって
ここにいるわたしと
ここではないどこかの全てのものたちは
実はみんな同じひとつかもしれないと
思いはじめる
自分とそれ以外って
どう区切られるものだったろう
「ここではないどこか」
#148
あなたと最後に会った時
それが最後だなんて思わなかった
今日はありがとう、またね
互いにそう言って
またの日があると疑わないで
会者定離 一期一会
サヨナラだけが人生だ
言葉をいくら知っていても
この悲しみは 無念は
何度も味わうものなのか
無常の風は
くるくると回りながら
何度も吹きつけてくる
「君と最後に会った日」
#147
繊細な花だと言われるのは心外
感じやすく 傷つきやすいのは
本来いるべき場所にいないから
わずかな変化 わずかな刺激にも
たちまち弱ってしまう
自分らしくいられなくて
少しずつ 何かしら無理をしながら
わたしに合う場所にいられたら
傷つくことなんか恐れず
ずっとのびのびタフになる
花とすら認識されないくらいに
「繊細な花」
#146
「こちらが1時間煮込んだものです」
そんなかんじで
「こちらが必死に過ごした1年後の姿です」
「様々な経験が染みて、
穏やかに熟成してますね」
だといいけど
(「あの人はいま」ってそういう企画か、、
他人の時間は早送りできるんだな)
「1年後」
#145
子ども時代は
腹ぺこで迎える
初めてのフルコース・序盤
テーブルに案内されて
椅子に腰掛けるだけでわくわく
グラスに注がれた水もきらめき
ああ 美味しい
メニューを示され夢が膨らむ
あれもこれも全部食べたい
全部食べられるんじゃないかな
だってこんなに腹ぺこ
こんな材料をつかって
あんな盛り付けをして
どれも目新しくて魅力的
なんて美味しいんだろ
メインをしっかり味わう頃には
お腹もしっかり落ち着いて
あれ
いつの間にか大人になってた
もうこれ以上は食べられない
あとは甘いものを少しだけ
選んだ魚は間違いなかった
肉もちょっと試したかったな
ああ 美味しかった 楽しかった
また腹ぺこからやり直したいけど
苦いコーヒーで締めくくろう
「子供の頃は」
#144