「 私ね、勿忘草っていうお花が好きなの 」
と 、彼女はよく そう口にしていたことを今でも覚えている 。
僕は初めてそう聞いた時
「 へー 、なんで? 」
と 、ただ話の話題になればいいなと 、
そんな軽い気持ちで 質問をした 。
なので 、そこまで答えに 期待していた訳では
無かった 。
のだけれど 、彼女は
「 んー 、可愛くない? 」
と 、あまりにも適当な答えを出すもんだから 、
軽く笑ってしまった 。
普段そんな適当な理由を つけない彼女だからこそ 、そんな一面もあるのだなと 、そう思った 。
「 まぁ 、確かに可愛らしい花だよね 」
「 私ね 、白色が好き 」
と 、微笑みながら言う彼女 。
「 なんで? 」 そう 聞こうと思ったが 、
どうせまた適当な理由だろうと思い 、そこまでは聞かなかった 。
── それから約数ヶ月 。
ふと 、僕の中に疑問がうまれた 。
彼女はホントにそんな適当な理由で "勿忘草" を好きだと言ったのだろうか?
あの時は気にもとめなかったけど 、今思えば やっぱり彼女らしくないな 、なんて 。
今更ながら思う 。
そう思うと 、なんだかいてもたってもいられなくて 、気づいた時には
勿忘草について 調べていた 。
そこで分かったのは 、
彼女の好きな 白の勿忘草の花言葉は
「私を忘れないで」だった ということ 。
もしやこれを伝えたかったのかな 、なんて 。
そうだとしてもそうじゃなかったとしても 、僕は物事を ポジティブに捉える方が好きだ 。
そう思い 、これは 彼女が僕に
" 伝えたかった最期の言葉 " だったのだろうと 、勝手に そう解釈した 。
彼女は内気な性格で 、言葉に出して伝えるのが苦手なタイプだった 。
だからこそ 花の名前を出して俺に伝えたかった 。
と考えても 、ある程度納得はいく 。
本当は今すぐにでも真実を彼女に確認したい 。
でももう あの可愛らしい笑顔を浮かべる彼女はここには居ない 。
Fin .
「 私 、優しくないよ 。」
ブランコを漕ぎながら 、急にそんなことを
呟く彼女 。
一体どうしたのだろう。そんなことを思いながら 、私はなんて返そうかと 考えた 。
それでも何も思いつかなくて 、
私は彼女に対して 何も返答できぬまま俯いた 。
「 そんなことないよ 」
なんて 、なんだか無責任な気がして 、私には到底言えなかったのだ 。
その無言の空気を切り裂くように 、
彼女は言葉を続けた 。
「 あんたみたいに 、」
…と。でも、私にはそれがどういう意味か
分からなかった 。
「 どういう意味? 」
そう聞こうと思った瞬間 。
紺色の靴が一つ 、宙に舞った 。
── 彼女の靴だ 。
その靴は思ったより遠くへ飛んだようで 、
彼女は少し焦りの表情を見せつつ ブランコから立ち上がり 、無言で片足を上げながら必死に 靴の飛んだ方向へと向かった 。
そして紺色の靴をしっかりと履き直した彼女は 、
「 じゃあね 。」と 一言 。
私も咄嗟に「 またね 。」と返す 。
そんな出来事から 、 約数ヶ月が経過した 。
彼女には未だに あれがどういう意味で 、どういう意図があったのかは聞いていない 。
いや 、聞いていないのではなく 、聞けていないの方が正しい 。
私は 、誰もいない教室で1人 。
彼女の机の前に立つ 。
そっと木目をなぞり 、 椅子を引いて 、彼女の席へと座る 。
窓から入ってくる爽やかな風と 、キラキラと光る太陽の日差しが心地よくて 、なんだか眠ってしまいそうだ 。
そういえば彼女は 、この席でよく授業中に居眠りをかまし 、先生に怒られていたな 。
なんて 、懐かしい思い出に浸る 。
彼女の机の上に置いてある 、白い一つの花瓶と 、その花瓶の中に咲いている一輪の花 。
「 ねぇ 、私だって 、優しくないよ 」
彼女がどういう意味を込めて 、
あの日私にあの言葉を向けたのかは 、
彼女に聞かないと きっと永遠に分からない 。
でも 、一つだけ言えることは 、本当に私は優しくなんかない 。ということだ 。
私は優しいのではなく 、「 断れない性格 」なだけである 。
だから リーダーシップのある 、正義感の強い彼女に 、私はずっと憧れてた 。
私が いじめられていることに気づいて あなたが私を守ってくれた あの日のことは きっとこの先もずっと 忘れない 。
… まるで 昨日のことのように 、鮮明に思い出せる 。
でも 、そのせいであなたは 、
あの日からいじめの標的になった 。
それに私は気づけなかった 。
気づいたのは 、 あなたがいなくなったあと 。
「 … ねぇ 、どうして 、言って … 」
くれなかったのか 。
言ってくれたら 、もしかしたら助けられてたかもしれないのに 。
「 … 確かにあんた 、優しくないよ 、」
私に隠し事するところとか 、
私を置いて1人で先にいってしまうところとか 、
1人取り残された私の気持ちも考えずに 。
言ってよ 。いくなら 。
言ってくれたら 、私も一緒に いってたのに _ 。
「 ねぇ ? 今からでも遅くないかな 、? 」
私は 優しくないから 、あんたの気持ちなんてこれっぽっちも考えていない 。
それでも 、分かってる 。私がそっちにいってあなたに会えば 、大激怒されることくらい 。
でも 、もし大激怒されたら 、私も大激怒してやるんだから 。
「 怒りたいのはこっちだ ! 」ってね 。
で 、2人して疲れるまで激怒しあったらさ 、
またいつもみたいにバカ笑いしようよ 。
だから 、…
「 まっててね 。」
Fin .