酔った君はとんだ甘えん坊だ。やたらと手を繋いでくるうえ簡単に愛の言葉を囁いてくる。適当にあしらおうものなら可愛く駄々を捏ねてみせる。
「昨日のこと、覚えてます?」
案の定、何も覚えていないというその返答にどこか安堵する自分がいる。覚えていない振りだというのならそれでも構わない。
君は何も思い出さなくて良い。
言葉に耳を傾け手を離せずにいた奴なんか。
幾度かのあの瞬間を未だに反芻してしまう奴なんか。
もう二度と会うことのない奴なんか。
君はこちらなど振り返らず、前に進んでしまえ。
酒、煙草、大音量の音楽。
この三つがあれば最高の酩酊が手に入る。
アルコール由来かニコチン由来か区別のつかない吐き気を薄らと感じながら、小舟に乗ったかの様に身体を揺らし、ロックシンガー気取りで唄うのだ。
例え無様に踊っているだけに過ぎなくとも。
仲間と語り合い笑い合ったときはあんなにも照らされていたというのに、徐々に闇が差し、気が付けば皆帰るべき場へと向かう。
懐かしむことも侘しむこともなく、今はただ、電気を消した小部屋であのグラデーションを思い出している。
考えない。
考えたくはない。
だから何も考えずに夜を越える。
本能が諦めない限りこの日々を続けるのだろう。
これからも、ずっと、きっと明日も。
何年か前、一人の友人がいた。当時の職場で知り合った人だ。可愛らしい、真面目な人だった。
第一印象は怖かったけれど、とても優しい人だと知って好きになったのだと告げられた。
やめた方が良いと何度も忠告しつつ、気が付けば3年も曖昧な関係が続いていた。
頻繁に互いの家へ行き来し、手料理を振舞ってもらい、同じ映画を観ては感想を語り合う。傍から見ればお似合いのカップルだったそうだ。
しかし友人とは根本から違っていた。家族に対する想いも、経歴も、能力も、人間関係も、何もかも正反対で、自分はただ友人を否定せず、友人も自分を否定せずにいただけだった。
無理難題の問題に対して友人は解決しようと日々思考を巡らせていた。かくゆう自分は逃げに徹していた。どうしようもない問題だと散々わからされていたからだ。
そしてある日、友人は実家に帰ると切り出した。限界を迎えたそうだった。
地獄に慣れてる自身でさえ気が狂ったんだ。根をあげても仕方がなかった。
誰も、自分でさえも、誰ひとりとして助けられないんだ。
友人が目の前から去って、少し気が楽になった。大切な人を巻き込むことに、裏切りだと恨んでしまうことに、罪悪を感じることにもう疲れたんだ。
今の部屋は延々と静まりかえっている。手作りの料理がテーブルに並ぶことはもうない。
このまま独りにさせてほしいという小さな呟きはすぐに壁へと吸い込まれて消えていった。