何年か前、一人の友人がいた。当時の職場で知り合った人だ。可愛らしい、真面目な人だった。
第一印象は怖かったけれど、とても優しい人だと知って好きになったのだと告げられた。
やめた方が良いと何度も忠告しつつ、気が付けば3年も曖昧な関係が続いていた。
頻繁に互いの家へ行き来し、手料理を振舞ってもらい、同じ映画を観ては感想を語り合う。傍から見ればお似合いのカップルだったそうだ。
しかし友人とは根本から違っていた。家族に対する想いも、経歴も、能力も、人間関係も、何もかも正反対で、自分はただ友人を否定せず、友人も自分を否定せずにいただけだった。
無理難題の問題に対して友人は解決しようと日々思考を巡らせていた。かくゆう自分は逃げに徹していた。どうしようもない問題だと散々わからされていたからだ。
そしてある日、友人は実家に帰ると切り出した。限界を迎えたそうだった。
地獄に慣れてる自身でさえ気が狂ったんだ。根をあげても仕方がなかった。
誰も、自分でさえも、誰ひとりとして助けられないんだ。
友人が目の前から去って、少し気が楽になった。大切な人を巻き込むことに、裏切りだと恨んでしまうことに、罪悪を感じることにもう疲れたんだ。
今の部屋は延々と静まりかえっている。手作りの料理がテーブルに並ぶことはもうない。
このまま独りにさせてほしいという小さな呟きはすぐに壁へと吸い込まれて消えていった。
9/29/2024, 6:47:36 PM