友よ忘れておくれ。
思い出の品々はもう灰と化してしまった。
せめて空想でも納得しておくれ。
見知らぬ土地で見知らぬ誰かと添い遂げてるだろう。
いっそ書換えておくれ。
こんな奴など初めから居なかった。
友よ、どうか、ゆるしておくれ。
貴方達の幸せを永遠に願っている。
陽が上り始めたばかり、空がほんの少し明るく照らされた瞬間に時が止まれば良い。と、思考し捻り出す。
ひとりぼっちの世界を隅々まで堪能するのだ。
実際のところ、誰も彼もがいなくなれば良いと願っている。
夜景を創る側の人間だ。
地べたで這いずりまわって光を発させている。
高みの見物をしている側のことなんぞは考えない。こちらにそちらを認識する余裕なんてなかった。
第一、人口の光よりも空に輝く星々や陽射しを反射させる水面が好きなのだ。
もしもあの自然の光を創り出す側になれたのなら、どれだけ良いだろうか。
自分はつくづく花というものが似合わない人間だ。
そもそも相性が悪い。
気管支炎を患っていたせいか、中学にあがるまで花に近付くと体調を崩していた。
今ではそういったこともなくなったが、今も昔も花に対して大した興味は出なかった。現に、何ともなしに花畑を調べて「コスモス畑が旬です」と謳い文句を目にしても、行きたいというような感情にはならない。
容姿に関しても、花と自分とではちっとも合うことのない組み合わせであると自覚していた。自分は花の様な可憐で淡いものより、夜の海の様な図太くて濃いものの方が合うのだ。
それでも、実際に花畑を目にしたら簡単に惹かれるのであろう。綺麗だと、壮大だと、貧しい賛美を送りながら、心躍るのだろう。
何ともまあ、花よりも単純な人間だ。
空が泣く度に憂鬱な気持ちになる。
気圧だとか景色の影響だとかそんなものよりもっと簡単なワケで、昔の嫌な記憶が蘇るからだ。
もう十年も前の記憶になる。
恋人から突きつけられた別れを、食い止めただけのことが始まりだった。何分初めての恋人だったもので、当時は愚かなまでに若かったもので、最初で最後の強烈な愛だったもので、それはそれは必死に泣いて乞いたものだ。
そんな自分に恋人は心底呆れ果てただろう。渋々承諾しては無かったことにした。
濡れた土の匂いと雨音、唇の感触と冷えきった体温を今でも憶えている。
その半年後に、恋人は蒸発した。
悲嘆に暮れるなかで呟いた何故の一言が、虚ろの始まりだったと今になって思う。
空が泣く度に思い出す。
自分が処刑宣告をされた罪人だと知った絶望を。自問自答の先で見つけた真理を。
とはいえ生活は続けなければならない。顔色ひとつ変えることなく惰性に寿命を削っていかなければ。
ぼんやりとした憂鬱に浸りながら考える。
全て忘れていたいから、せめて死ぬ時くらいは空も泣かないでくれと。