手のひらの宇宙
「…………尾上君、それは一体何を…」
「ゲーム」
「携帯電話ですわよね…?」
「スマホな」
「携帯電話・スマホ…」
「今やってんのは蛸嶋くんから友達紹介で始めた…はじめさせられた?やつ。興味あるかんじ?」
「うさぎさん、かわいいですわね」
「これは『ミミナガーイ・アシミジカーイ』、『マルミミモケモケ』の進化系。こいつが進化すると『ソラトベール・ツチモグール』」
「今なんて言いましたの」
「その次が最終進化形態『ソラカケール・カミヲモコロース』」
「何がどうなって何になるっていいましたのいま」
「俺は『オヨゲール・メチャハヤーイ』が好きで育ててるところ」
「……スマホで生き物を…」
「やる?」
「…………以前、おそらく似たゲームを勧められたことがありまして。私は上手く世話が出来ずに死なせてしまいましたの。なので慎んで遠慮させていただきますわね」
「好きそうだけどなこういうの」
「好きですわよ、画面越しなら怖がられる事もありませんし。その分死なせてしまったことが申し訳なく。」
「仕方ねぇな」
「ええ」
後日、お嬢の元に宅急便で『ミミナガーイ・アシミジカーイ』のぬいぐるみが届いた。とりあえずこのアプリだと生き物は死なないからやってみないかと言ってみるかなぁと考え中。
ゲームの中なら、幻獣だって神獣だって手のひらの上に。
かぜのいたずら
編集中です
Ring,Ring…
『もしもし、私メリーさん、』
「間に合ってます」
「悪質なセールスの断り方見本?」
後日加筆します
冬晴れ
正月早々に変なものに絡まれるのは面倒だろ、と止められたものの、お嬢が馴染みの神社にお参り行くっていうから着いてきた。
「珍しく正月三が日、見事に晴れましたわね」
「年々気温上がってるよな。雪降らないとかザラだし」
「海面上昇、南極の氷も溶けていますしどうなることやら…」
「……地球温暖化って怪異的にはどうなんだ?」
「凍死する方が減ることと遭難する方が減るのは良いことかと。雪深い地域での災害も変わってくると思いますが……出る時は出ますし、影響が出るのは『雪』という現象がなくなってからではないでしょうか」
「……雪女とかやっぱ出る?」
「出る時は現世で降らずとも出ますわよ。雪が降ったから怪異が出るのではなく雪と密接な関係にあるなら気温が30度あっても怪異の出現とともにあらわれると思いますわ」
「気温30度で出現する雪女とか強すぎねぇ!?」
「まぁ流石にそんな強者は……よっぽどの理由がなければ出ないでしょうけれど。基本自分が強い場を整えますから」
冬の怪異が本領を発揮できるのはやはり冬である。
貞子さんやらも基本夏だよな。
白ワンピースって冬寒そうだし。
いやいつ出ても怖いけど。
季節に合わない服装の人ってそれだけで浮くし異様だよな。
顔見えないとさらに怖い。
神社に向かう途中の道ですれ違った、水浸しのスーツの男性とか。
「ところでさっきのって何もない?大丈夫?」
「不躾に見るのは感心しませんよ尾上君。でも以前よりは上手くなりましたね、視線を躱すのが」
「が…元旦に来なくてよかった、か…?」
「怪異の話してましたから呼びましたかねぇ…このまま鳥居まで続けましょう、一度撒けば十分だと思いますし帰りは石蕗を呼びますね」
「寝正月を遂行すれば良かったかな……」
「なかなかうまくいきませんわよ、なんでも」
新年早々、前途多難である。
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前回で第一部は完!ここからはお嬢と尾上くんが出会ってさよならまでのこぼれ話というかをちまちまやっていく所存です
順番ばらばらでいつか綺麗にまとめたい
しあわせとは
「貴方が幸せであること」
「貴方が何事もなく一日を過ごせること」
「貴方の未来が輝いていること」
それが私達のさいわいです。
そう言って笑った奴を、俺は死ぬまで忘れないだろう。
あれから。
高校卒業資格を取得して。
英検やら漢検やらとって。
大学の見学会で人に酔って。
受験会場でも人に酔ってたら実力が発揮できねぇ!って
そこから同年代が多くいる場所の耐性つけるかって
なんか色んなイベントに参加して
同時並行でお嬢の護衛がなくても俺のメンタルを安定させようってしてたらしくて
そこそこ無難に乗り越えて
おばけ耐性もそこそこついて
週7から週3、週1から月2、月1、くらいまで怪異との遭遇が減って。
色々あったけどとりあえず、大学に進学できました。
眼鏡にも慣れた。同じ学科に居た五月君にはめちゃくちゃびっくりしたんですけどもたまたまらしい。本当か…?
その関係でちょっとばかしあの人たちとの縁は続いたけど、
2年になるとまじで会わなくなった。
五月君がめちゃくちゃ忙しくて捕まらないんだよな。
サークルの人に仲良いでしょ呼んでよって言われたけども。
教えてもらった携帯電話も全然繋がらない。
LINEも既読つかない。いやまぁ五月くんスタンプでしか返って来ないけども。取ってる講義も被らない。そんなこんなで疎遠になった。卒業式だけちょっと話した。
保護者枠で八ツ宮殿来てて。ちょっと老けてた。
言ったら「貴方は大きくなりましたね」って笑ってた。
初めて会ってから5年ちょいたってたし。身長伸びたし。
そうしてちょっと、寂しそうな顔して。
「我ら陰陽師集団白咲、尾上蓮殿の新たな門出を心より、祝福します」
そうして最後のお守りを俺に手渡して、去っていった。
オバケに追いかけ回されたあの日々に戻りたいとは絶対思わないんだけど。でもきっと、あの日々は俺にとっての青春だったんだって、そう思うよ。