しるべにねがうは

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7/7/2024, 12:56:42 PM

1年に一度しか会えない恋人。
うんうんロマンチックだな。身分や仕事、人間関係諸々で好き合っているのに離れ離れ。恋とは障害が多いほど壁が高く厚いほど燃えるものだったか。

七夕とはとは。日本の神事と中国伝来の伝説と色々ごたまぜになりつつ現代まで残ってる恋愛行事。

そしてそれにかこつけて日本中の遠距離不倫カップルが逢瀬を企む浮気調査探偵大忙しのシーズンだ!!!!!

「このクソ暑い中走るにゃしょぼいボーナスじゃねぇかな!!!」
『ンマーそんな贅沢言って!バレてねぇって高括ってる所激写するのが3度の飯より好き(はーと)って言ってたアンタはどこに行っちゃったの!?ほらもうすぐ出てくるわよカメラ準備!』
「カーーーーッ何が楽しくてこんな純愛カップルの海かき分けてバカの写真なんざ撮ってんだよ僕ァ!ハーーーーッ両方相手は自分が本命だと思ってら!ばーーか!!自分たちも純愛です♡みたいな顔していちゃついてんじゃねーよ!」
『これ終わったらかき氷食いにいこうね、疲れてんだね』
「ちくしょお……こんな…純正カップルみたいな顔しやがってよ……こいつら不倫なんだぜ……クソがよ」
『がっつり慰謝料取れるようにね、証拠はばっちり集めようね』
「彦星と織姫ががっかりするぜこんなの……」
『あの2人はお互い好きすぎて仕事に身が入らなくなったんだっけ?』
「そこまで行ったらもうちょっと距離置いた方がいいんじゃねぇのって割と真理すよね……辛いは辛いけど切替できんだろ、みたいな」
『結婚するまでは2人ともマジで真面目だったんだろうね…その分箍が外れちゃったんだろうかね……』
「そんな人に出会えるってのは、幸せな事ですねぇ…」
「本当にねぇ…」
『写真撮れました、撤収しまース』
「熱中症に気をつけるのよ〜」

インカム越しの声が遠くなる。先輩の方にアイスの差し入れでもしてみるか。七夕様にかこつけずとも、できる努力を少しずつ。

『職場の先輩に、ちょっとでも近づけますように』

いろんな意味で。

7/7/2024, 12:35:45 AM



手のひらに収まる大きさ。大体3本足から五本足。目は三つから四つのものが多く、時折一つ目のものもいる。二つ目のものはいない。そんな文章で始まるモノだから、放課後はいつも居残りだ。
でたらめ書くんじゃありません、そんなモノはこの世にいません、架空の友達じゃなくて現実にいる友達の事を書きなさい。

「現実にいるのに、誰もわかってくれない」
『かなしい?』
『くやしい?』
『はらへったか?』
『たすけてか?』

適当なクラスメイトをピックアップしてでっちあげる。
後日先生がそいつに「〇〇君が作文に書いてあったの読んだよ、仲良くしてあげてね」と言いに行き「ふざけんな気持ち悪い、2度と近寄るな〇〇〇〇め」と俺に苦情を言いに来るまでがセットだ。喧嘩しました、仲直りはしたので大丈夫です、で先生の仕事は終わりなのでそれ以上関わってはこない。
俺から友達を取り上げる事まではしない。

「大体みんな俺のこと馬鹿にしてんの知ってんだよ、友達なんざ冗談じゃない」
『たすけてじゃないのか』
『かなしいじゃないのか』
『くるしいじゃないのか』
『はらへった』
「お前ら本当自由だよな」

ちょっと羨ましいぜ。筆箱やらランドセルの中でうごうご遊ぶそれら。物心ついた時から隣にいたものたち。勝手に友達と呼んでいる。心通わせあっているとは別に思わないが、同い年の人間同士で遊ぶより彼らを観察している方が楽しかった。
自分にしか見えていないとなれば優越感も湧く。こいつら本当に自由なのだ。朝だろうが夜だろうがだらだら過ごしている。水辺ではばちゃばちゃやってるのを見かけるし授業中は先生の教科書でトランポリンをして遊んでいる。他人からすれば何もないところを注視して時折笑う異常者だ。そんなやつと関わりたいやつなどいない。俺だってそんなのはごめんだ。
ひとりは寂しい。だけど陰で嗤ってるような奴らに媚び売るくらいならひとりでいい。幸いこいつらみてるの面白いし、退屈はそう感じない。

『はらへった』
『めしよこせ』
『くるしいか』
『たすけてほしいか』
『めしくいたい』
「ほいほい」

てのひらサイズのこいつら用に作ったちっさいちっさいおにぎりを渡してやる。放課後居残りしてるのは俺だけだから他人に見られる心配もない。ちいさいそいつらはがばりと口を開けて米を咀嚼する。いーよなこいつら。仕事も学校もないもんな。

『ありがとー』
『はらいっぱい』
『さみしいか』
『くるしいか』
『たすけてほしいか』
「おまえら見てんの楽しいからいいよ」

多分良くないものだということはわかっている。
遠くないうちに悪い事が起きる。
それでもいいと考える程度に、俺はこいつらのことが好きだった。なんてことのない、感傷だ。

7/5/2024, 11:51:19 AM

満天の、に続く言葉といえば私はアレしか浮かばない。
その言葉を聞くとどうにも懐かしく胸を締め付ける。郷愁。私の故郷にきっと、そう言う場所があったのだ。この痛みは私の過去を肯定する数少ないものの一つ。私がかつて存在した証。
ここにないものを覚えていること。ここでないどこかで生きていた記憶。私のしるべ。私が私であるりゆう。じがをたもつ、こころ。

「……この世の何処にもそんな場所はない」
「あるとも。どうして君はそう、夢も何もないことを言う?」
「夢ってのはどんな味だ?食いでがあるのか?」
「質問に質問で返すな」
「悪かった。で?どうなんだよ」
「…………君は夢も希望もないからな」

それに本当に僕の回答が聞きたいわけではないだろう。
単純に、その質問に対して私がどう返しても酷いことを言いたいがために投げかけてくるだけだ。悪意も悪気もなく。
単に私が絶望するのをみたいだけだ。しないが。

「私にとっては大事なものさ、君にしたら味も食いでもないだろうけどね」
「現実から目を背ける為の幻想が?」
「幻想かどうかは私が決める。君はきみの世界と幻想の中で生きればいい」
「……結局夢の味は?」
「知るか。君の夢の味など君しか知るまいよ」
「俺に夢なんてない」
「…………じゃありんご飴の味だ、君好きだろう。それで満足しておけ」
「夢ってのはりんご飴の味がするのか」
「人による。夢って云うのは大概そいつの好みのもので構成されているから……りんご飴より好きな物があるってんならそれでもいいんじゃないか」
「ない」
「ならりんご飴だ」
「はん。安っぽいもんだな」
「ええい人の夢を罵るだけでは飽き足らんのかきみ、自分の夢は自分で誇れ、なにゆえ自分でそう貶す?」
「安いだろうがりんご飴」
「……だからなんだ」
「俺の夢の味は安いなと」
「自分の夢に類するものを安いとか言うんじゃない」
「なんだよ俺が俺の夢を何と言おうと勝手だろうが」
「そこに至るまでの過程で私の話が無きゃあ勝手にしろと言いたいがね、私と話してそうなったんなら私にも責任があるだろうが!」
「ないだろ」
「君曰くそれは『現実から目を背ける為の幻想』にすぎないかもしれないがね、よすがにしているものにとっては何者にも変え難いモノなんだよ」
「……それが?」
「無自覚でもそれをぞんざいな扱いをしてはいけない。君の夢は君だけのもの、君の夢は君自身。たとえ自分自身だとしても踏み躙ったりしてはいけない、ここまでわかるか」
「わからん」
「君なぁ!!!」

思わず声を荒げればそこにあったのはがらんどう。
そんな顔を、するなよ。泣きたくなってしまうだろう。

「俺なんて一番どうでもいいだろ、俺が何を望もうが何を願おうが無駄だろう、そんな雑音は、邪魔になる」
「ならない」
「邪魔だ」
「そんな事はない」
「俺の意思も、こころも、なければ」
「ふたつとも大事だ。君のもので大事じゃないものなんてない」

震え始めた背中を摩る。安心できるように。ここにいるよと伝わるように。彼は時折こうなる。自分に意思も心もなければと嘆く。血を吐くように呻く。彼も自分と同じだ。何処かしらが欠けている。私はそれがここにくる前一切の記憶。彼に欠けている物が何か、私は知らない。
何も知らない。

だけど寄り添うことはできる。傷ついたこころに手当てをしてやって、どうかちょっとはマシになりますようにと祈る事は、できる。

「最初からなにもなければよかったのに」
「そんなことはない」
「ぬくもりもやさしさも知らなければよかった」


君はつめたさときびしさの中で生きてきたんだな。だからぬくもりもやさしさも知る事ができたんだ。
それは君にこころと意思があったからだと私は思う。

「私はいつか君に星空を見せたいと思っているよ」

君が私に絶望してほしいのは、多分昔の自分を思い出すからだろう。追いかけきれなくなった夢や、本当は諦めたくなかった夢や、本気で追い続けたけれども届かないと悟った夢が、あったのだろう。私に諦めさせる事で自分を慰めようとしている。だからと言って他人の夢に対してヤイヤイ言うではない。赤ん坊かお前は。
私にできる事は、成功した姿を見せる事。
夢を追いかけ続けて笑うこと。
無駄ではないと示すこと。

「願い続ける事は、夢を見る事は決して無駄じゃない、と君に証明してみせる」

そうしていつか「ほらみろ、これが満天の星空ってやつさ、君の記憶のどれより美しいだろう」、って笑うのだ。