しるべにねがうは

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手のひらに収まる大きさ。大体3本足から五本足。目は三つから四つのものが多く、時折一つ目のものもいる。二つ目のものはいない。そんな文章で始まるモノだから、放課後はいつも居残りだ。
でたらめ書くんじゃありません、そんなモノはこの世にいません、架空の友達じゃなくて現実にいる友達の事を書きなさい。

「現実にいるのに、誰もわかってくれない」
『かなしい?』
『くやしい?』
『はらへったか?』
『たすけてか?』

適当なクラスメイトをピックアップしてでっちあげる。
後日先生がそいつに「〇〇君が作文に書いてあったの読んだよ、仲良くしてあげてね」と言いに行き「ふざけんな気持ち悪い、2度と近寄るな〇〇〇〇め」と俺に苦情を言いに来るまでがセットだ。喧嘩しました、仲直りはしたので大丈夫です、で先生の仕事は終わりなのでそれ以上関わってはこない。
俺から友達を取り上げる事まではしない。

「大体みんな俺のこと馬鹿にしてんの知ってんだよ、友達なんざ冗談じゃない」
『たすけてじゃないのか』
『かなしいじゃないのか』
『くるしいじゃないのか』
『はらへった』
「お前ら本当自由だよな」

ちょっと羨ましいぜ。筆箱やらランドセルの中でうごうご遊ぶそれら。物心ついた時から隣にいたものたち。勝手に友達と呼んでいる。心通わせあっているとは別に思わないが、同い年の人間同士で遊ぶより彼らを観察している方が楽しかった。
自分にしか見えていないとなれば優越感も湧く。こいつら本当に自由なのだ。朝だろうが夜だろうがだらだら過ごしている。水辺ではばちゃばちゃやってるのを見かけるし授業中は先生の教科書でトランポリンをして遊んでいる。他人からすれば何もないところを注視して時折笑う異常者だ。そんなやつと関わりたいやつなどいない。俺だってそんなのはごめんだ。
ひとりは寂しい。だけど陰で嗤ってるような奴らに媚び売るくらいならひとりでいい。幸いこいつらみてるの面白いし、退屈はそう感じない。

『はらへった』
『めしよこせ』
『くるしいか』
『たすけてほしいか』
『めしくいたい』
「ほいほい」

てのひらサイズのこいつら用に作ったちっさいちっさいおにぎりを渡してやる。放課後居残りしてるのは俺だけだから他人に見られる心配もない。ちいさいそいつらはがばりと口を開けて米を咀嚼する。いーよなこいつら。仕事も学校もないもんな。

『ありがとー』
『はらいっぱい』
『さみしいか』
『くるしいか』
『たすけてほしいか』
「おまえら見てんの楽しいからいいよ」

多分良くないものだということはわかっている。
遠くないうちに悪い事が起きる。
それでもいいと考える程度に、俺はこいつらのことが好きだった。なんてことのない、感傷だ。

7/7/2024, 12:35:45 AM