孤独だった私の手は、空を掴むばかりだった。
そんな私に、大切な人ができた。
その人の手は暖かくて、私より一回り大きな手。
その手と自分の手を繋いで、変わらない街の風景を歩いて楽しんでいた。
繋いだ手を離したくない、このままでいたい。
このまま、一緒に歳をとって
しわくちゃになっても、同じように手を繋いでいたい。
貴方の手は、私の日常に優しい温もりを添えてくれる。
その手を私の両手で包み込んで、伝える言葉は
「ありがとう」「愛してる」のありふれた言葉。
それを何度でも、貴方と繋いだ手を通して伝えてく。
始まりがあるものには、なんであれどんなものにも終わりがある。
人々の人生も、そんなものだろう。
終わりがあるから、始まる物語。
人の一生は、いつか来る終わりを飾る彩だ。
終わりのない物語には、始まりなんてない。
終わるからこそ、始まり、その物語が深いものになるんだ。
雨上がり、陽の光が雲間から差し込む。
今、新しい葉が芽吹く。
枯れた大地に、小さな芽がひとつ。
やがて、その小さな芽は大きな森を築くだろう。
その芽吹きは命の始まり、誰も知りえぬ芽吹きは、
やがて人々の憩いの場として、知れ渡ってゆく。
手のひらに差す陽の光の温もり
それは、あの時に握った君の手のひらの温もりに似ていた。
だからってこの手はずっと温いままじゃないし、
それに君が戻ってくる訳じゃない。
やがて手のひらの温もりは冷めてゆく、
あの日君の手を離した僕の手はすっかり冷えきって、
今はもう空を掴むばかりだ。
優しいあなたの背中を追いかけてばかりいた、自分も優しくて頼れる人間になろうって努力していた。
そんな理想が散ったのは、つい最近だった。
私はあなたの葬儀場に来ていた、線香の匂いが鼻につく。
やけに小さな骨壷に入ったあなたは、あの頃の高い背丈が嘘みたいだ。
遠かった背中は、とうとう消えてしまったみたいだ。
あなたの遠ざかった背丈は、もう見えない。
冬の白い雪が、あなたの墓に白いベールを被せている。
雪のしんしんと降り積もる世界に、あなたの記憶が埋もれてゆく。