りんご

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4/15/2024, 10:58:34 PM

お題 届かぬ想い
      届かぬ想い
 「彩子、仁くんと上手くやってるの?」
彩子にそう聞いたのは、彩子のもと恋敵・花江。皮肉っぷり満載の口調で言う。
「ちょっと〜、花江、そんなの聞いても無駄だよ? だって、仁くんと彩子、熱々ぶりがすごいんだもん。羨ましいよ。」
「あら、そう。私はね、あんたたちラブラブカップルのせいで彼にふられたんだから。」
「だって、彼くん、吉野くんでしょ? あのプレイボーイとまともにカレカノやった女子生徒いないんだって知ってるでしょ。」
高野彩子の彼・松村仁、彩子のもと恋敵・伊藤花江の彼・吉野那由多(なゆた)。ふたりは大親友であるがもともと仲の悪かった彼女を持ったことで体裁が悪くなり、メール以外の手段で交流することがなくなり、それを嫌がった那由多くんがこっそりと仁に頼み、花江がどれだけの頻度で仁のもとへ訪れたのか教えてもらい、別れる口実を作り上げたとか。
「花江はさ、せっかくめちゃイケメンの男子が彼になったのに浮気とかするのが良くないくせ。散々那由多くんにアピったくせに。」
那由多くんの今の彼女・囲炉裏山心愛(みあ)が皮肉めいたことを言う。
「心愛〜、言い過ぎやばくない?」

4/14/2024, 9:40:47 PM

お題 神様へ

4/13/2024, 11:32:31 PM

お題 快晴
    快晴
「あら、彩陽ちゃん。今日はいいお日和だこと。」
シーツを取り込むために外に出ると、お隣の日和田さんが声をかけてきた。ひとり暮らしの日和田さん、やけに晴れやかな顔をしているな。
「こんにちは。今日は誰か来るんですか?」
「あらあ、目のつけどころがいいわね。うちの娘がね孫息子と娘を連れてくるのよ。だから張り切っちゃって。」
「そうなんですか。」
「えぇ。もう、ほんっと、雨空も快晴だわ!」
ぺこりとお辞儀をしてシーツを取り込み、縁側に座ってタオルや雑巾をたたむ。日和田さんによると、日和田さんは旦那さんとのあいだにひとりも子どもができず、養女を迎えたということだ。つまり、その「娘」は「義娘」であるということ。まあ、あのお優しい日和田さんは子どもだったらなんでもいいというわけだろう。日和田さんの旦那さんが不倫をして、自分よりずっと年下の女性と同棲を始めても何も言わず、旦那さんが出て行くというまですべての世話をするくらいの忍耐力があるような人に、あんな旦那さんはもったいないと思う。
「あのー、日和田さん、息子さんの方は?」
日和田さんの旦那さんとその不倫相手のあいだにはひとり息子が存在する。

4/12/2024, 11:15:51 PM

お題 遠くの空へ
 「結愛(ゆあ、仮名)!」
「ん?」
振り向くと、あい子(仮名)がいる。
「何?」
「知ってる? 今日、横須賀でバルーンフェスティバルがあるんだって! でもここからじゃ見えないね。結愛、どうしても見たいんだけど。」
「バルーンフェスティバルでしょ? だったら見えるよ。何時から?」
「14時から。」
「今日午前授業でしょ? 私は見えるよ。」
「え!?」
「私、生徒会長だもの。屋上で会議があるの。ホワイトボード出して。そのとき、ちょっと早く来てれば見れるよ。」
あい子は残念そうに俯く。
「うちはあいにく、今日から日曜まで富山だから。見えないよ。」
「そんなことないよ! 実際には見えないかもしれないけどね、遠くの空へ、「バルーンフェスティバルはこんな感じかな?」って思ってみれば浮かんでくる。ね?」

あい子を送り出すと、ふと、屋上に出た私。寝転がり、空を見つめる。遠くに、赤い丸いものがふわふわと浮かび、空の階段を駆けて行く。おそらく、あれがバルーンフェスティバルの開催を告げるものなのだろう。きっと、あい子も、どこかで遠い空へ願いを込めて、送り出しているのだろうな。

4/11/2024, 10:21:26 AM

お題 言葉にならない
 言葉にならない
「残念ですが、インフルエンザB型ウイルスです。」
そう言われたときの、ショックと言ったら、なんの。2回目で、しかも子ども盛りの4年生、代表委員会などの夢が詰まっていた新学期に、そんなことを言われるとは。私はこの言葉にならない、もやもやしていてでもどこかはっきりと鮮明に光る怒りを押し留めるので精一杯で、これから隔離されるであろう一週間を思うのにまで余裕が回らない。それは、一週間が決められているからだと思う。家から一歩も出ず、マスクをつけてただひたすらに療養に努め、元気になっても外出を禁じられる。この辛さは、どんなサーヴィスや素晴らしいアンドロイドによるインタラクションでも忘れることはないと思う。普通、人はとても素晴らしい気持ちよさを得られるサーヴィスや最新型の何かに触れるとそのときだけ嫌なことを忘れるものであり、私もそうであるけれど多分、天国まで案内することができるというサーヴィスでも満たされることはあるまいと信じた。ぼんやりと外を眺めながら母に連れられて向かいの薬局に足を進める。感染したらまずいからとドアの横に椅子を置かれ外で待つことになった。と、そこで喉の渇きを覚え、くるりと薬局内を見回す。脳内記憶では、おそらく給水系の飲みものがあったはずだと思っていたのだが、それは鷺ノ宮駅前の薬局だというわけだ。ウォーターサーヴィスのありそうなところはないかと見回すけれど、そんなものは到底ない。そこでまた言葉にならない気持ちに襲われた。喉の渇きがどうにもならぬとわかり、封じ込めていたもやもやとしていて、でもどこかはっきりと鮮明に光る怒りが戻ってきたのである。
 言っておこう。私は、学校を愛していると言ってもいいほどの人だ。一週間学校を休むなど、あり得ることではない。前回インフルになったときは涙に咽びながら休んでいた。ウォーターサーヴィスのことはすっかり忘れて本に没頭しようとしていたとき、ふたりの女児と母親らしき人が薬局から出てきた。ハッとして息を止め、少しでも飛沫感染経路を断とうとする。意味はないが。すると、また、言葉にならない気持ちが襲う。母子が去ったあとにはウォーターサーヴィスのことを忘れ去り、一週間後の自分を考えていた。
 と、もうふたり、娘らしき子どもを連れた男女がやってくる。またもや息をとめ、通り過ぎるのを待つ。
唐突に、母が処方された薬を持って薬局から出てきたとき、ウォーターサーヴィスのことを思い出した。
「このあたりに、ウォーターサーヴィスのある店はないか」
と聞こうと思ったけれど、やめた。

明日から、きっと地獄のような隔離生活が始まる。

 「夏帆(仮名)〜、ちょっといい?」
「何?」
寝転がっていたソファから起き上がり、母を見る。
「夏帆、元気なんでしょ? だったら内職してよ。」
そう言って母が出したのは、ラミネーターとラミネートフィルム、そしてラミネートする紙だった。
「これ、奈帆(仮名)の漢字カード。2年生になるでしょ。だから暇ならやってもらおうと思って。」
「え〜、奈帆のやつなら奈帆がやればいいじゃーん。奈帆、そういうの得意でしょ。」
いやいや引き受けると、紙を切り、ラミネートフィルムに挟んでいく。手際よく挟み、ラミネーターを起動させると予熱が始まり、緑のランプが光る。
「よっ、と。」
ラミネーターがフィルムを吸い込んで、どんどん接合する。
「できた。」
案外おもしろく、甲斐甲斐しく働いているあいだに三分の二をラミネート。明日のために残りは早めに切りラミネートを残すのみとした。

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