「永遠なんて、ないけれど」
__人生は短い。
クロとの時間も、あっという間。
彼は、もう、シニアなんだ。
散歩の足どりも、ゆっくりだね。
隣で眠る、その温かい重み。
感じながら、思う。
__永遠なんてない。
それは、本当のこと。
今朝、わたしが台所に立ったら、
クロは静かに寄ってきて、
わたしの足に、そっと、鼻をつけた。
ひんやりと湿った、その感触。
満足げに細められた、優しい目。
形あるものは、いつか消えてしまう。
でも、この小さな「今」の、
温かい、この 積み重ね こそが、
永遠に勝る 宝物 なんだ。
クロ、きみと過ごす、
今日という一日は、
まぎれもなく、
わたしにとっての「永遠」そのもの だよ。
「パラレルワールド」
もしも、あのとき。
違う道を選んでいたら、
わたしはどんな顔をしていただろう。
いつもの散歩道。
右へ行くと、公園。
左へ行くと、川沿い。
いつもは右を選ぶ。
クロが、うれしそうに走るから。
もしも、わたしが左を選んでいたら。
川沿いの景色はどんなだろう。
わたしの知らない、
別のクロがいるだろうか。
どんな顔をしているのかな。
どんなふうに笑うんだろう。
わたしは少し、さみしくなる。
でも、なぜだろう。
不思議と、あたたかい。
どの道を選んでも、
どのわたしがいても、
クロと一緒。
そう思うと、
この世界が、少しだけ、やさしくなる。
「僕と一緒に」
いつも
僕の足元には、クロがいる。
黒い小さなかたまり。
日光を浴びて、毛がキラキラする。
朝、僕が目を覚ますと、もう彼はそこにいる。
じっと、ベッドの横で待っている。
顔を洗うときも、パンをかじるときも、
彼は影のように、
僕の後ろについてくる。
公園まで散歩に行く。
クロは僕の歩くペースに合わせて
軽やかに走っていく。
まるで、僕の足が伸びたみたいに。
たまに、他の猫に気を取られて、
リードを引っ張る。
それも、愛おしい。
楽しそうに揺れるクロのしっぽを見て、
僕も、笑顔になる。
家に帰って、ソファに座る。
クロは静かに、
僕の膝に頭を乗せる。
その重みが、心地いい。
言葉は交わさない。
でも、お互いの存在は確かめ合っている。
僕の世界のすべてを、
彼は知っているかのように、
じっと、僕を見つめている。
クロがいるから、
僕は一人じゃない。
僕といっしょにいる時間が、
クロにとって、かけがえのないものだといいな。
そして、僕にとって、
クロがいる日常は、
なにものにも代えがたい宝物だ。
「cloudy」
曇りの日…。
空は薄いグレーのキャンバスみたいで、
太陽は、見えないけれど、そこにいる。
光は柔らかくて、
時間がゆっくりと流れているような気がする。
犬のクロと散歩に出かけた。
涼しいからか、クロの足取りは軽やかで、
いつもの場所も、少し丁寧に匂いを嗅いでいる。
なんだか、いいな、と思った。
ふと見上げたら、雲の隙間から
一瞬だけ、青空が顔を出した。
クロに目を戻すと、クロも空を見ていた。
そして次の瞬間、クロと目が合った。
言葉なんてなくても、
お互いにこの静かな時間を、
わかちあっているのがわかった。
家に帰ってからも、
その静かな楽しさは続いていて、
ベランダの小さな椅子に座って、
ただ、雲が流れていくのを眺めた。
足元では、クロがすやすやと眠っている。
こんな曇りの日だからこそ、
日常の中にある、
小さな幸せを、
より強く感じられるのかもしれない。
そんな、ただそれだけの、
とても穏やかな一日。
既読がつかないメッセージ
メッセージを送って、
既読がつかない。
そういうのが、少しこわい。
たぶん、どうでもいい人には、
気にもならないことだろう。
でも、こわい。
クロは、
私が帰ってくると、
しっぽを振って喜んでくれる。
既読なんて関係ない。
ただ、そこに、いる。
それが、どれだけ、
安心できることか。
返信がなくてもいい。
ただ、読んでくれた、
それだけでいいのに。
既読がつかないメッセージは、
私だけの宇宙に、
いつまでも、いつまでも、
漂っている。