月島

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8/21/2023, 8:04:38 AM

眠るように息を引き取った君に、さよならを伝えようとして口を噤んだ。

長い間一緒だった君と、たった4文字でお別れしたくなかったから。

……あのさ。

初めて会ったその日から、君の長い髪が、日の光に照らされてキラキラと輝いた、あの春の日から、ずっと君が好きだった。

春の桜も、夏の緑も、秋の紅葉も、冬の雪も、君と一緒だったから美しく感じたんだ。

僕の世界に色をくれて、ありがとう。僕に、かけがえのない思い出達をくれて、ありがとう。

愛してる。

僕の瞳からこぼれ落ちた涙が、君の頬にはらりと落ちた。

【さよならを言う前に】

8/19/2023, 11:46:53 PM

今日は生憎の空模様。私は、サーサーと降り注ぐ雨を学校の屋根の下から見ていた。

「あー!傘忘れてきたんだけど……」

私の隣で君が叫ぶ。

「俺、雨って服が濡れるから嫌なんだよなぁ……なぁ、お前もそう思わん?」

君にそう尋ねられた私は、クスリと笑って首を横に振った。

「雨、私は好きだよ」

だって昔、君が「雨が好きだ」って言ってたから。

「かっこいいレインコートも着れるし、かっこいい傘もさせるし、雨の時にしか楽しめないこともあるでしょ?」

昔の君の受け売りを、今の君に伝える私。でも、君は不思議そうに首を傾げるだけだった。

「そうか?……てか、かっこいい?お前、かっこいいもの好きだったっけ?」

ふふっ、やっぱり覚えてないみたい。

「好きな人の受け売りだよ」

「すっ、好きな人!?だ、誰誰誰!?」

「ふふっ、まだ内緒!」

私は明るく笑うと、雨の中に飛び出した。

「お、おい!濡れちまうぞ!?」

「あはは!だいじょーぶ!ほら、君も!」

私は君の手を引いて、雨の中を走り出した。

「このまま走って、一番乗りで虹を見よう!昔みたいにさ!」

「に、虹ぃ?……たく、しょうがねーな」

仕方なさそうに笑う君が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。

今日も、明日も、その先も……こうして、手を繋いで走れますように。一番乗りの虹を、一緒に見られますように。そう願いながら、私はきらめく雨の中を走った。

きっと虹は、すぐそこだ。

【空模様】

8/19/2023, 3:52:26 AM

私は鏡が好き。なんでかっていうと、鏡は私の大事な「今」を映してくれるから。

小さい頃、お母さんが仕上げてくれた可愛い髪型の自分を、鏡越しに見るのが楽しかったなぁ。

中学生の頃は、毎朝、お姉ちゃんと洗面所の争奪戦をしていたっけ。寝癖が跳ね放題の私達が、お互いに押しのけ合いながら髪をとかしたりドライヤーを取り合ったりしている姿を、鏡はしっかりと映していた。

高校生になった時、初めて彼氏ができて、一生懸命メイクの練習をしてたんだよね。日に日に上手くなっていくメイクを、鏡は毎日見守っていてくれた。

そして、今。ヘアメイクを終えて、白いドレスに身を包んだ私が、鏡に映っている。

「新婦様、そろそろ……」

式場のスタッフさんが私を呼ぶ。

「はい。今行きます」

私は立ち上がり、鏡を見つめた。幸せそうな花嫁が、鏡の中に立っている。

「私の幸せな今、見ていてね」

私は鏡の中に咲いた一輪の花に、微笑みを返した。

【鏡】