【恋物語】
真夜中に私の好きな人がこの町から出ていくと知った時、私はすぐに家を飛び出した。
その時の時刻は午後23時ちょうど、静まり返った町にはスーツケースを引く音だけが聞こえる。
スーツケースを引いている人は私の好きな人で、もうすぐ姿が見えなくなりそうなのが嫌で無我夢中で走った。
「なんで黙って出ていくんですか」
「あなたがショックを受けると思ったからだよ、この行為が最低だとはわかっていたけど」
「最低だと思うなら、最初から私に上京すると告げてショックを与えれば私だって覚悟が出来ていたのに!」
「帰って来ないって言うわけじゃなかったから言わなかったんだ」
「ならまた帰ってきてください、私はいつでもこの町にいますから」
「もちろんだよ、また会おうね」
またスーツケースを引く音が聞こえて、私は涙をこぼす。
これが私の人生における恋物語の第一幕。
【子供のままで】
最近の事だが、私は知り合いの住んでいる町で高校生くらいの女の子に出会った。
いつも笑顔で私を見かけると走り寄って来るその姿が可愛くて、ずっとこのままがいいと思った。
あの姿が可愛くてずっと見ていたいから大人になんてならないでほしい。子供のままでいて欲しい。
本当にお願いだから大人にならないでよ。
【モンシロチョウ】
私が街中をカトレアを持って歩いていた時にモンシロチョウがカトレアに止まり、そのあと私の手に移った。
私に蜜はないはずなのにと思ったが、気付いた。
このモンシロチョウはあの日あの神社で自分がもう死んでいるという事を私に告げて消えたあの人で、あの人は心も身も綺麗な人だったから神様がきっと綺麗なモンシロチョウにしてくれたんだ。
でもあの人が人間のままであろうがモンシロチョウになろうが私には何も出来ないことが明確でしかない。
卵を産ませろなんて言われても私はやらないよ、あの人は自由に飛んでいて欲しいから。それが私の思うあの人にとっての幸せなの。
「今度はちゃんと幸せになってね」と願いながらあの人の生まれ変わりであろうモンシロチョウを空に放した。
ねえカトレアはちゃんと枯れるまで育てるから安心してね。あとまた幽霊になって出てこないでね、私はちゃんと元気にやっているから。
【明日世界が終わるなら】
『明日世界が終わるなら何をしたいですか?』って永遠に人に質問されるテーマだと思う。
私は聞かれたら「大好きな人に会いたい」と答える。
大好きな人に会って、自分の想いを伝えて、出来るなら抱き締めたい。いや、最後の日なんだから抱き締める。怒られても良いし嫌われても良いよ、だって最後なんだもの。
最後の日に大きい夢なんてなくていいの、小さくても夢があればいいの。それだけで幸せになれるんだから。
でも世界が終わるなんてないと思うけど、もし終わると知った時のために色々頑張らなきゃね。
いつか最後の日じゃなくても大好きな人に想い伝えられたらいいな。
【二人だけの秘密】
今日は私の家に友達が来て、テレビを見ながら成人式の話をしていた。
「ねえ海未は成人式出るの?」
「高校進学の時期に志望校の偏差値で人の上下が勝手に決められて蔑まされてた時みたいに大学の偏差値でまたやられるなら出ないよ。彩は出たいの?」
「それは同感だね、私も出たくない」
中学生時代に自分のクラスだけ異様に荒れていて、苦しくて相談しても私のことや彩のことなど可愛げのない邪魔な子どもにしか見えなかったからか教師は見放したのであんまり成人するこのタイミングになっても信頼してない。それに同級生も彩以外みんな見下して来ていたのは同じだったし、高校生になってもどうせ変わってなかったしな。
だから地元ほど窮屈で不満で邪魔なもんはないよ。
「二人だけの秘密、作って欲しい」
「いきなりどうしたの?」
「成人式に出ない代わりに二人だけでアイツらも親も誰も知らない秘密の旅行がしたいの」
「初めての二人の秘密がそれだけでいいの?」
「違うよ、今から作って行くの。今日はあなたの誕生日だから二人だけでお誕生日会をするの」
「それも秘密ってことかあ。じゃあこれから二人に起こること全部二人の秘密ね?」
これでいいの、これから起こることは全部二人だけの秘密。ずっとよろしくね。