【恋物語】
真夜中に私の好きな人がこの町から出ていくと知った時、私はすぐに家を飛び出した。
その時の時刻は午後23時ちょうど、静まり返った町にはスーツケースを引く音だけが聞こえる。
スーツケースを引いている人は私の好きな人で、もうすぐ姿が見えなくなりそうなのが嫌で無我夢中で走った。
「なんで黙って出ていくんですか」
「あなたがショックを受けると思ったからだよ、この行為が最低だとはわかっていたけど」
「最低だと思うなら、最初から私に上京すると告げてショックを与えれば私だって覚悟が出来ていたのに!」
「帰って来ないって言うわけじゃなかったから言わなかったんだ」
「ならまた帰ってきてください、私はいつでもこの町にいますから」
「もちろんだよ、また会おうね」
またスーツケースを引く音が聞こえて、私は涙をこぼす。
これが私の人生における恋物語の第一幕。
5/19/2024, 9:51:25 AM