(いつもそうだ。俺はいつもあいつを待ってばかりいる。今も昔も)
夜の海を眺めながらフェンスに寄りかかり、カイトはため息を付いた。
夜の海には街の様々な光が反射しとてもうつくしい。だがそれは何処か切なく儚いように思えた。
カイトはそこで人を待っている。
だが、約束の時間はとうに過ぎているのに、男はまだ来ない。
(今度は必ず行くと約束したのに、またか)
カイトはもう何度目かもわからない大きな溜め息をついた。
カイトを待たせている男の名はオーム。
カイトにとって、オームはとても曖昧な存在だ。だからといって関係をハッキリさせるつもりはない。ハッキリさせたとたん関係が崩れるのをカイトは恐れていた。
ジーンズのポケットから携帯を取り出し、電話をかける。何度かの呼び出し音を聞いた後、機械的な留守番電話の音声が流れてきた。
「来ないなら、もう帰るよ」
そう告げて、電話を切り歩きだした。
このまま帰る気にならなかったカイトは、
近くの店でビールを買い、飲みながらあてもなく歩く。
(これからどこに行こうかな)
カイトは不意に思い立ち、ある場所にむかった。
一緒に通った大学、その途中にあるやけに階段の長い歩道橋。飲みすぎて終電がなくなりかえれなくなった時に一緒に泊まったホテル。だが、色々いってるうちに元の場所に戻ってきてしまった。
「結局ここか」
溜め息をつき、桟橋の柵によるかかるように座りうなだれる。
そこに、誰かがカイトの目の前で立ち止まった。
「お兄さん一人? 俺と飲まない?」
その聞きなれた声に、カイトは顔を上げる。そこにはオームの笑顔があった。
「遅ぇよ、ばか」
笑い、手を差し伸べる。オームはカイトとを勢い良く引き起こし抱き止める。
「ごめん、遅れた」
「今日はお前の奢りな」
「わかったよ」
「財布の中身がなくなるまで飲んでやるからな」
覚悟しておけ。と、肩叩き歩きだす。オームは叩かれた肩を撫でながら、カイトの後を追っていった。
By ゆさ(noteにて小説と詩をを投稿してます)
今日の天気予報は晴れ。
カーテンから差し込む朝日は、優しくカナリアを包み込んでいた。
こんな天気のいい日は家になどじっとしてはいられない。カナリアは、そそくさと朝食をすませ、身支度を始める。それを見ていた母親がため息を付いた。
「カナリア、夏休みだからって遊んでないで勉強しなさい」
「勉強も大事だけど、遊ぶことも大事」
お気に入りの靴を履きながらいう。
「遊んでばかりじゃない」
「お母さん、遊びは経験だよ。人間形成する上で一番大事なんだよ」
「もう、そんな屁理屈ばっかり言って」
「お母さん、私にとって16歳の夏は今しかないの。2度と経験できないのよ。だったらもっと楽しまなきゃ!」
「あ母さんは、遊ぶのも大事だけど、勉強も大事っていう話をしてるのよ」
「わかってる、帰って来てからやるから」
「必ずよやるのよ」
「気が向いたらね。行ってきます!」
そう言って、カナリアは家を出て行った。
「あっ、ちょっと」
もう! と、怒る母親に後ろから、「まあいいじゃないか」と、父親が声をかける。
「そんな怒るなよ」
「お父さんからもちゃんと言ってよ」
「俺はカナリアが元気であればそれでいいぞ」
「もう、本当にカナリアに甘いんだから」
「俺は娘に嫌われたくないんだよ。それに、お母さんがカナリアに厳しくしてくれるから、俺は甘く出来るじゃないか。アメとムチでバランスいいだろ?」
笑いながら言う父親に「物は言いようね」と、呆れたように母親は笑う。
二人は、カナリアが出て行ったドアを見つめ、
「こっちに引っ越してきて本当に良かったな」
「そうね。また、あの子の笑顔が見れたんだもの」
そう言って、涙ぐみ笑った。
今日はこの自転車に乗って何処へ行こう。あの白波がたつ海、あの猫達が集まる神社、緑が多く暗いが神秘的な湖。それともまだ知らない場所を開拓するか。
カナリアはワクワクしていた。ペダルに足をかけ勢い良くこぎだす。
「I am free!」
そう叫び、下り坂を颯爽と駆け抜けていった。
-- 終わり--
By ゆさ(noteにて小説と詩を投稿しています)
車掌の景色が太陽に向かう黄色の花で埋め尽くされる。
故郷へ向かう電車の中、車窓のから外を眺め、市原和也は物思いにふける。
(あれから何年経ったのだろうか)
和也は考えていた。子供の時に出会った麦わら帽子を被り、向日葵のように優しく笑う男の子。その出会いは、あまりにも悲しく、衝撃的な別れをした。
スーツを着た大人達に連れていかれる彼は、少し安心した表情で優しく笑った。
その、向日葵のような笑顔があまりにも綺麗で、和也は大きく手を振りながら、
「大人になったら必ず会いに行くから」
と、叫び約束した。
彼はアザだらけの顔を歪ませ頷き、涙をぬぐう仕草をしたあと、もう一度大きく手を振り大人達と一緒に車に乗り込んだ。
車はゆっくりと走り出す。和也はいてもたってもいれなくなり追いかけようとするが、父親に静止され動けない。
車の姿が見えなくなるまで彼の名を叫び続け、泣き崩れる。
あれから幾重の時を重ね、和也も老人といわれる歳になった。
彼から届いた一通のハガキを持ちながら、電車を降りる。
駅の外は日差しが放り注ぎ、向日葵畑が広がっていた。
その先に一人の老人が立っていた。彼は麦わら帽子を被り手を振ってくれた。
あの時と同じ向日葵のような笑顔で。
--終--
by ゆさ(noteに詩と小説を投稿してます)
私は一人の空間が好きだ。一人で妄想に耽っているのがとても好きなのだ。
それは私にとって特別な空間であり、思考というものを楽しんでいる。そういう時は何人たりともそれを侵すことを許さない。
誰かといるのが煩わしいときもある。