車掌の景色が太陽に向かう黄色の花で埋め尽くされる。
故郷へ向かう電車の中、車窓のから外を眺め、市原和也は物思いにふける。
(あれから何年経ったのだろうか)
和也は考えていた。子供の時に出会った麦わら帽子を被り、向日葵のように優しく笑う男の子。その出会いは、あまりにも悲しく、衝撃的な別れをした。
スーツを着た大人達に連れていかれる彼は、少し安心した表情で優しく笑った。
その、向日葵のような笑顔があまりにも綺麗で、和也は大きく手を振りながら、
「大人になったら必ず会いに行くから」
と、叫び約束した。
彼はアザだらけの顔を歪ませ頷き、涙をぬぐう仕草をしたあと、もう一度大きく手を振り大人達と一緒に車に乗り込んだ。
車はゆっくりと走り出す。和也はいてもたってもいれなくなり追いかけようとするが、父親に静止され動けない。
車の姿が見えなくなるまで彼の名を叫び続け、泣き崩れる。
あれから幾重の時を重ね、和也も老人といわれる歳になった。
彼から届いた一通のハガキを持ちながら、電車を降りる。
駅の外は日差しが放り注ぎ、向日葵畑が広がっていた。
その先に一人の老人が立っていた。彼は麦わら帽子を被り手を振ってくれた。
あの時と同じ向日葵のような笑顔で。
--終--
by ゆさ(noteに詩と小説を投稿してます)
8/12/2023, 5:17:38 AM