─鏡─
鏡の中の君。僕が左手を握れば、君は右手を握る。
君と握手はできないけれど、
僕が君を見つめるとき、君も僕を見つめてる。
そんなことは初めてで、君は僕の特別だった。
君とお話ができたらいいのに。
僕は君に話しかける。
返事が返ってくることは無いけれど、
少し傷跡が増えた君は僕と同じように笑ってた。
そっか、君も同じことを思っていたんだね。
ドタドタと玄関が騒がしい。
昨日よりも騒がしい。
■■が帰ってきた。
今日もまた、傷が増える。
でも、僕はちっとも痛くないし、悲しくもない。
だって次会う君もきっと、僕と同じだから。
─夜の海─
「…久しぶりだな」
夜の海。
空の色に染まって、気味が悪くなるほど暗い。
波の音だけが聞こえる。
人工的な光で照らされる。
生き物の姿は何処にもない。
「昼間はあんなに輝いているのに。」
でも、あの輝きは海のものじゃなくて、
宇宙の大きな大きな太陽のもの。
ただの借り物。
そんな見方しかできない自分が嫌になる。
でも、そんな自分は今日で消える。
「さようなら。僕。」
小説みたいに洒落た台詞を放つ。
意識が消える寸前、君の声が聞こえた気がして。
僕の心は不思議と穏やかだった。
─お疲れ様。これからは私が貴方を支えるから…
─心の健康─
「健康な心ってどんな心だろう?」
キミはそう言った。
健康な心か。
嬉しいことを嬉しいと思える心。
楽しいときに楽しいと思える心。
嫌なことを嫌と言える心。
それとも、誰かのことを思いやれる心?
一番大切なのはどれだろう。
もしかしたら、
全部揃って初めて「健康」になるのかな。
健康な心ってどんな心だろう。
その答えが分かるのは、多分
ボクの心が健康で、幸せになったときだ。
それから、ボクだけ健康な心が分かったとして、
キミにそれを伝えるのは、なんだか違う気がする。
「…それなら、
キミが答えを知るそのときまで、
ボクがそばにいてあげるのはどう?」
─君の奏でる音楽─
君はあまり笑わない。
いつも一人で窓の外を眺めてる。
海の見える僕らの町。
太陽の光でキラキラと輝いている青い海。
誰もが憧れる景色。
けれど、僕らにとっては見慣れた景色。
君の瞳にはどんな世界が見えているのだろう?
君はあまり笑わない。
僕と話すときも、どこか上の空。
ついに鼻歌まで歌いだす。
君の奏でる音楽はなんだか懐かしくて、温かい。
君はあまり笑わない。
音楽を奏でる君は楽しそうに笑っている。
僕と居るときだけ、奏でてくれる。
だから君は、あまり笑わない。