なんでもないフリ
君と並ぶ夕暮れの道。
淡く滲む茜色の空に
君の声が溶けていく。
それは風のように儚く美しい。
「大丈夫だよ」と笑う君の瞳に
本当の色を探してしまう。
触れたら壊れてしまいそうな
その微笑みに息を呑む。
なんでもない、そう告げるたび
心の中でそっと祈る。
君がいつかこの痛みに
気づかないままでありますように。
冬もはじまり、買い物に出かけた。
イルミネーションなどが輝いていて
親と子が手を繋いで歩いているのを見かける。
子どもは、夢と希望でいっぱいになる。
大人になるにつれて夢も希望も薄れていく。
大人って大変。泣いていても
寄り添ってくれる人が居ないんだもん。
誰と会っても、子どもの話ばかりだと、
自分の存在が薄れると感じちゃうもん。
たまには休んでください。お疲れ様です。
欲しかったのはね、「ありがとう、ごめんね」
じゃなくて「愛してる」の一言でいいの。
貴方のこと、許してないよ。
でも、ちょっとだけ愛してる。
変わったことは、君が居ないだけ…。
ある日、甥っ子が部屋の片隅で泣いていた。
どうすることが正解なのだろう。
傍に寄り添うことしかできなかった。
甥っ子は私が近寄ると怒ってくる。
だけどそのときは抱きついてきた。
彼の手は冷たくて、微かに震えている。
暗闇に残された独りの子ども。
甥っ子の母親は出産の後息を引き取った。
甥っ子の父親、私の兄は事故で息を引き取った。
その頃の甥っ子はまだ4歳だったのに。
もう両親に会えないなんてとても辛いことだ。
私はそんな甥っ子をぎゅっと抱きしめてあげた。
甥っ子は小さく掠れた声で呟いた。
「ぼく、パパとママに会いたいよ。」
夜は外が暗くなり人の心も暗くなる。
全てがどうでも良くなり夜遊びに明け暮れる人や、
ベッドの上で眠れないほど、
辛いことを思い出して泣く人もいる。
大人の世界は広くて、汚い。
ナンパ、ホスト、キャバクラ、風俗、ギャンブル。
借金を返すため売り飛ばされる子供もいる。
人間は優しい人もいれば、
危なく恐れなければいけない人間もいる。
物騒で騒がしく汚い一面のある眠らない世界で
今日も、生活をして生きていくのだ。