―鏡―
「鏡よ鏡
あなたはものや人の
真似をすることでしか
個性を発揮出来ないような
在り来りで典型的なろくでなしなのね
っふふ、真に受けないでよ
冗談よ、冗談
では、鏡よ鏡
あなたや私のような
個性のない量産されたような奴は
世でどのような扱いを受けると思う?
そう、私たちは“役立たず”
というレッテルを貼られ
何も出来ず、除け者にされるの
だから、魔女狩りの対象にもされて、
狩りから逃げるために
こんな地下でひそひそと生活しなくちゃ
ならないのよ
地下にあなたを連れてきたのは
私の孤独を和らげるためよ
あなたが私の真似をしてくれるだけで
独りじゃないような気がするの
あなたも何も出来ない筈なのに
私はあなたに助けられているわ
不思議ね」
―夜の海―
夜 夏の暑さで 目が覚めた
窓の外を見るに まだ夜
月のあかりは 雲の中
二度寝をする気さえも 起きず
気づくと 私は外に出ていた
ふらふらとした 足取りで
行先もなく ただ歩く
辿り着いた先は 夜の海辺
波の音だけが やけに大きく
私の耳を 突き抜けた
まだよろよろと 動く足は
波打ち際を 目指している
おいでおいでと 手招くように
私を惑わすさざ波の声と
砂を踏みしめて 動く足
不思議な力に導かれ
私の靴は 波に濡れた
どす黒く揺れる暗い海
どこまでも広く深い海
月がやっと顔を出す頃
私は夜の海の中に
私の全てを 投げ捨てた
朝日が目覚め 残ったのは
すっかり冷たくなった身体と
海が浄化した私のかけら
―終点―
タナトスを乗せたこの列車
希望を失った虚ろな目が並ぶ
〇にたい、消えたい、壊れてしまいたい
そんな思いだけで動いたこの列車の
行き着く先はどこなのか
終点はあるのか
その列車が止まればそこで
何が起きるのか
―だから、一人でいたい。―
別に、私陰キャなんでとか、
人に興味とかないのでとか、
そういうのではない
ないのだけれど、人が怖くなった
愛している人に、信じていた人に、
裏切られたあの日、あの絶望
私がどれだけ相手を信じていても、
相手がそれ相応の信頼を
置いてくれるとは限らない
相手が、私をどれだけ見下しているか…
私をどんな気持ちで見るのか…
私には分からない
信じていても裏切られる
疑っても煙たがられる
付かず離れずの“丁度いい”対応なんてできるほど
私は器用じゃない
それなのに…
あなたは私に何を求めるの
どこまで要望に応えれば気が済むの
私はどうすればいいの
そればかり問い続ける
自問自答の日々
答えは出ない
そんな日々に意味はなくて
かと言って塵ほどの勇気すら私にはないから
だから、一人でいたい。
―お祭り―
浴衣に袖を通して
帯もしっかり結んで
髪の毛も綺麗にまとめて
足袋の上から下駄を履いて
扉を開ければ遠くに見えるは
光を放つ提灯と連なる屋台
聞こえてくるのは
お祭りの音
気にしてるだけじゃつまらない
今度は私の番でしょう?