―窓越しに見えるのは―
窓越しに見えるのは辺り一面の青
ここは電車の中
私の他に誰もいない、電車の中
右の窓も左の窓も、広がった青で
埋め尽くされている
窓の外は海と空
水平線も見えないほどの深く濃い青だ
じっと見つめて待っていると
じわじわと海面が上がってくる
空は海に押し出されて
電車は海の中に入った
何の縛りもない
誰にも見られない
穏やかな海は自由だった
すると私の視界の隅を何かが過ぎる
振り向くと窓の外にはイワシの大群
電車の中を通って過ぎ去って行った
左の窓にはクラゲがふわふわと浮かんでいる
かと思えば色とりどりのカラフルな魚たちが
ヒラヒラと泳いでつり革を通っていた
イルカ達は嬉しそうに窓を突き抜けていき、
タコもつり革にぶら下がっていた
誰も邪魔しない
久しぶりに息をした気がした
私は魚たちに連れられて、海の中を
ふわふわと泳いだ
―赤い糸―
“赤い糸ってさ、切れちゃったりするのかな
さぁ?わかんない
でも、もし切れるなら、
何をきっかけに切れるんだろう
んー…大人になったら分かる…かな?
大人なれば、ね…”
遠い昔のそんな会話を
ぼんやりと思い出していた
特別、大切な思い出だったわけでもなかった
いや、思い出というよりかはただの記憶
それ程、内容の薄い話
思い出したのは今が初めてだった
こんなことよく覚えてたなとすら思える
そんな記憶だった
急に思い出したのは多分、
私が今、ほんとに何も考えていないからだ
息をすることも忘れてしまったかのように
ずっとぼーっとしている
勝手に頭で再生され続ける光景が
つい先程起きた本物の出来事だなんて
信じられなくて受け入れられなかったから
赤い糸が切れる瞬間
私の身につい先程起きたそれは、正しくそれだった
これが理由だ、なんて明確なものはない
手元にあるスマホにしか向けない視線
あれこれ言っても冷たげな生返事
約束してもドタキャンや破棄が当たり前
出張だとか飲み会だとか、顔を合わせる暇すらなく
塵のように小さなことが積み重なっていき、
ただ、“多分、これでお終いなんだな”と
静かに悟るのだ
赤い糸は、そのとき初めてぷつりと切れる
台本通りとでも言うように淡々と
事は進展していった
あのときああしていればなんて、
反省や後悔は何も無かった
もう今となっては何でも良かったし
どうでもよかったから
ただひとつだけ、後悔があるならば
赤い糸何てもの、創らなけりゃ良かった
―ここではないどこか―
ここではないどこかに
探してるものはきっと
あるんじゃないかって
日常とか生き甲斐とか
幸せとかそういうのを
必死で探して生きてきた
色々と転々としていって
ころころころころと
変化を求めて変わってきた
それは自分が何なのか
分からなくなるほどに
変われば見つかると
確かにそう思っていた
浅はかだった
ここもダメ、あそこもダメ
色々と線を張っていくうちに
行き場に飢えてしまっていた
もう中身は空っぽになった
ボロボロの私に、形以外の
何が残っているというの
もう藻掻くことすら
許されない私は
何処へ行けばいいというの
私が何を試しても、まるで
上手くいかなかったこの世界の
何処に私の居場所があるというの
―繊細な花―
繊細な花を美しいと思った
過酷な環境下でも健気に咲き誇る姿に
魅了されていた
今でも、繊細で微妙なものは全て
美しいと思う
ただ、美しいものを美しいと
思えなくなってしまった
それはきっと心が穢れ、
視界も酷く濁ってしまったせいだ
―1年後―
1年後のことなんて考えたくもない
たとえ明日のことだとしても
未来を考えると怖くなる
だから想像もしたくない
こんな落ちこぼれ人間の未来なんて
大したことない
いい未来なんて
待ってるはずがないのだから
ほら、私は“今”を大事に生きていく
って言えば、聞こえはいいでしょう?