―赤い糸―
“赤い糸ってさ、切れちゃったりするのかな
さぁ?わかんない
でも、もし切れるなら、
何をきっかけに切れるんだろう
んー…大人になったら分かる…かな?
大人なれば、ね…”
遠い昔のそんな会話を
ぼんやりと思い出していた
特別、大切な思い出だったわけでもなかった
いや、思い出というよりかはただの記憶
それ程、内容の薄い話
思い出したのは今が初めてだった
こんなことよく覚えてたなとすら思える
そんな記憶だった
急に思い出したのは多分、
私が今、ほんとに何も考えていないからだ
息をすることも忘れてしまったかのように
ずっとぼーっとしている
勝手に頭で再生され続ける光景が
つい先程起きた本物の出来事だなんて
信じられなくて受け入れられなかったから
赤い糸が切れる瞬間
私の身につい先程起きたそれは、正しくそれだった
これが理由だ、なんて明確なものはない
手元にあるスマホにしか向けない視線
あれこれ言っても冷たげな生返事
約束してもドタキャンや破棄が当たり前
出張だとか飲み会だとか、顔を合わせる暇すらなく
塵のように小さなことが積み重なっていき、
ただ、“多分、これでお終いなんだな”と
静かに悟るのだ
赤い糸は、そのとき初めてぷつりと切れる
台本通りとでも言うように淡々と
事は進展していった
あのときああしていればなんて、
反省や後悔は何も無かった
もう今となっては何でも良かったし
どうでもよかったから
ただひとつだけ、後悔があるならば
赤い糸何てもの、創らなけりゃ良かった
6/30/2023, 2:36:19 PM